2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で猛威を振るい、約2年半で5億7,000万人超が感染、約640万人の死亡が報告されている。流行の早期収束に向けて、世界初のmRNAワクチンや新規治療薬の開発が欧米の主導で進められている。一方、国内における治療薬・ワクチンの開発は限定的で困難な状況にある。こうした現況を踏まえ、日本感染症学会、日本環境感染学会、日本化学療法学会、日本臨床微生物学会など7学会合同感染症治療・創薬促進検討委員会は8月2日、パンデミックやサイレントパンデミックと称される薬剤耐性(AMR)への対策・対応を視野に入れた治療薬、ワクチン、検査法の研究開発継続のための提言を厚生労働省、経済産業省、財務省宛に提出したと発表した。

3つの項目が盛り込まれた提言

 同委員会によると、欧米では10年以上前から新規感染症への備えとして、基礎研究と臨床応用に向けた戦略的投資が国主導で行われている。研究環境整備が進んでいたこともあり、COVID-19の緊急事態に直面した際にmRNAワクチンや抗ウイルス薬が画期的なスピードで開発された。しかしながら、日本における製薬・医療関連企業のCOVID-19流行に対する貢献は限定的であり、欧米とは対照的だ。このような現況に鑑み、提言では以下の3項目を挙げている。

①創薬促進が続けられる制度づくりの重要性

②緊急承認制度の活用による国産医薬品の早期臨床応用

③平時から新規治療薬、ワクチン、検査法を研究開発するための迅速な体制整備

国内企業の感染症治療薬開発が縮小

 ①の創薬促進が続けられる制度づくりの重要性について、かつて世界標準の抗菌薬は、多くが国内企業によって開発された。しかし、現状ではそうした企業でさえも感染症治療薬の開発が継続できない状況にあると憂慮。

 開発縮小の理由として、「いつ出現するか予測が困難な新型病原体に対する投資の難しさ」「AMR菌感染症は使用量や販売量に応じた収益の予測が立てにくい」「安定供給のための生産体制への投資など製造承認後の資金が不足しがち」を挙げている。

 これらの背景を考慮し、提言では欧米における薬剤、ワクチン、診断法の研究開発を継続できる仕組みの1つ「プル型インセンティブ」の国内導入を提案。医療事情や保険制度においてどのような施策が適しているかの早急な議論、諸外国に遅れることなく感染症関連プル型インセンティブの導入を進めるよう要望した。

 プル型インセンティブの具体例として、「製造販売承認取得報償制度」「定期定額購買制度」「特許独占期間延長」「最低買取保証制度」を挙げている。

緊急承認制度の活用が極めて重要

 ②については、国内では今年(2022年)5月20日に緊急承認制度が施行された。提言では、この点については画期的であると評価。同制度によって国内で新規開発された医薬品を早期に臨床応用できることとなり、1例目として初の国産COVID-19感染症治療薬が早速に適用される見込みであるとした。

 一方で緊急事態の発生は予測不可能であり、新興感染症など未知の病原体に対する治療薬、ワクチン、診断法の開発に対し、緊急承認制度をどのように活用するかが極めて重要となる。COVID-19対応で開発中の治療薬、ワクチン、新技術などに対し、同制度の積極的な活用を通じて充実したものにしてほしいと訴えている。

 ③の平時から新規治療薬・ワクチン・検査法を研究開発するための迅速な体制整備については、産学官それぞれが最新の知識やこれまでの経験に基づく方法論を効率良く共有し、実際の制度設計に十分に生かすことが重要とした。

 また、政府による感染症の司令塔組織「感染症危機管理庁」、「日本版疾病対策センター(CDC)」創設の表明を受け、基盤研究から臨床実用化までの流れを組織内で横断し、最新の科学を迅速かつ具体的な医薬品開発などに応用し、薬事上の指針づくりに反映できる仕組み、制度づくりを速やかに構築してほしいと要請している。

(小野寺尊允)