金沢大学泌尿器科教授の溝上敦氏らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下において抗がん薬治療による重篤な副作用である発熱性好中球減少症が減少していると、Cancer Sci2022年7月15日オンライン版)に発表した。

抗がん薬治療患者の5~15%に発熱性好中球減少症が出現

 抗がん薬による化学療法は、多くの進行がんにおいて治療の3本柱の1つであるが、副作用は避け難い。副作用が強まると、患者が治療に抵抗感を示すだけではなく、安全に化学療法を遂行することが難しくなり、生命予後を悪化させる恐れもある。そのため、治療の遂行には、いかに副作用を軽減できるかが鍵となる。

 中でも、注意を要する副作用の1つが発熱性好中球減少症だ。現状では、抗がん薬治療を行う患者の5~15%程度に生じるとされている。

 溝上氏らは今回、金沢大学病院泌尿器科で抗がん薬治療を受けた入院患者における発熱性好中球減少症の発症頻度を、COVID-19流行前(2018~19年)と流行中(2020年)で比較した。

コロナ前の15分の1に

 その結果、COVID-19流行前と流行中で抗がん薬治療の内容や患者背景に大きな差はなかったにもかかわらず、発熱性好中球減少症の発症率は、流行前の6.3%(317例中20例)に対し、流行中には0.4%(276例中1例)と有意に低下した(P=0.005)。

 多変量解析の結果、発熱性好中球減少症の独立した危険因子としてCOVID-19流行前(P=0.005)、一次治療(P=0.005)、栄養不良(P=0.032)、発熱性好中球減少症の既往歴(P=0.018)が抽出された。

 溝上氏は「COVID-19流行中に、発熱性好中球減少症の発症頻度が流行前の15分の1に減少した。これは、流行中はそれ以前よりも明らかに患者や医療従事者の衛生管理、面会制限が徹底された結果、外部から患者への細菌やウイルスの持ち込みが減り、従来の抗がん薬治療による好中球が減少する期間での感染が減少したからではないか」と推察。さらに「今回得られた知見と徹底した衛生管理は、どの診療科においても今後、抗がん薬治療を施行する上で発熱性好中球減少症対策に活用できると考えている」と展望している。

(比企野綾子)