小児では、過去のコロナウイルスへの曝露が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化に対しある程度の防御作用を示すとされている。この潜在的な交叉免疫が成人のCOVID-19への反応にどのように影響するかは今だよく分かっていない。米・Kaiser Permanente Northern California(KPNC)のMatthew D. Solomon氏らは、リアルワールドの大規模データを用い、交叉免疫のエビデンスが検出できるかを検討した。成人における新型コロナウイスル(SARS-CoV-2)以外のコロナウイルスへの過去の曝露を小児との接触で代用し、罹患後のCOVID-19重症化との関連を調査した。その結果、0〜5歳の小児と接触している成人ではCOVID-19の重症化リスクが低いことと強く関連していたと、Proc Natl Acad Sci USA (2022; 119: e2204141119)に発表した。
300万人超のリアルワールドデータで検討
Solomon氏らは、大規模統合医療提供システムであるKPNCの登録者のうち、2019年2月1日〜21年1月31日に健康保険加入者であった18歳以上の成人312万6,427人のデータを抽出。COVID-19パンデミックが始まった2020年2月1日以前の2年間に、同じ健康保険に加入していた加入者の最年少児の年齢に基づき4群に分けた。5歳未満児を持つ成人は子供と接触することで、過去のコロナウイルスやその他の上気道ウイルスへの曝露機会が増加していることから、最年少児が0〜5歳の成人27万4,316人を研究対象群とし、同6〜11歳の成人21万1,736人、同12〜18歳の成人25万7,762人、子供を持たない成人238万2,613人を対照群とした。
主要評価項目は、PCR検査によるSARS-CoV-2感染、COVID-19による入院、COVID-19による集中治療室(ICU)入室とし、2021年1月31日まで追跡した。
子供の年齢層とSARS-CoV-2感染や入院リスクに差はなし
各群の成人の平均年齢は子供の年齢が上がるに連れて上昇し、子供を持たない成人群が最も高く、高血圧や糖尿病などのCOVID-19重症化危険因子の保有割合も子供の年齢が高い成人群で高かった。
研究対象群と3つの対照群をそれぞれ1:1で照合し、COVID-19重症化危険因子を調整した傾向マッチング分析を行った。その結果、SARS-CoV-2感染率は、0〜5歳児を持つ成人群に比べ、6〜11歳、12〜18歳児を持つ各成人群でわずかに高かったが〔順に発生率比(IRR)1.09、95%CI 1.05〜1.12、同1.09、1.05〜1.13)、COVID-19による入院率、ICU入室率に差は見られなかった。
小児との接触がない成人ではCOVID-19重症化リスクが高い
0~5歳児を持つ成人群と比べ、子供を持たない成人群ではSARS-CoV-2感染率は低かったが(IRR 0.85、95%CI 0.83〜0.87)、COVID-19による入院率は27%高く(同1.27、1.10〜1.46)、ICU入室率は49%高かった(同1.49、1.01〜2.19)。さらに、COVID-19と診断された子供を持たない成人における重症化率は高く、COVID-19による入院率が49%上昇(同1.49、1.29〜1.73)、ICU入室率が76%上昇した(同1.76、1.19-2.58)。
以上の結果から、Solomon氏らは「SARS-CoV-2ワクチンが利用可能になる前のデータに基づく今回の調査結果は、SARS-CoV-2以外のコロナウイルスへの曝露による交叉免疫がCOVID-19重症化をある程度防ぐ可能性を示唆しており、疫学的なエビデンスを提供するものである」と述べている。
(宇佐美陽子)