中国・University of Hong KongのYue Wei氏らは、香港の統合失調症患者2万例超を16年間追跡する自己対照症例集積研究を行い、持効性抗精神病注射剤(long-acting injectable antipsychotics;LAIA、デポ薬)と経口抗精神病薬の有効性および安全性を比較。その結果、LAIA使用期間では経口薬使用期間と比べ、有害事象を増やすことなく入院、再燃、自殺企図のリスクが有意に低下したとJAMA Netw Open2022;5: e2224163)に発表した。同氏らは「統合失調症に対するLAIAの長期使用をより広く検討すべき」としている。

同一患者内のLAIAと経口薬の使用期間で比較

 Wei氏らは、香港の医療データベースClinical Data Analysis and Reporting System(CDARS)から、2004年1月1日~19年12月31日に統合失調症と診断されLAIAと経口抗精神病薬の両方を処方された患者2万3,719例を特定し、2019年12月31日まで追跡した。追跡開始時の平均年齢は41.7歳、男性が51.9%、平均追跡期間は12.5年だった。

 各患者の追跡期間を経時的に①非治療期間、②経口抗精神病薬の単独使用期間(平均5.0年)、③経口抗精神病薬とLAIAの併用期間(同4.4年)、④LAIA単独使用期間(同1.4年)ーの4期に分け、経口抗精神病薬とLAIAの各単独使用期間で評価項目を比較した。
 主要評価項目は疾患再燃(なんらかの精神疾患による入院、統合失調症による入院、自殺企図)および医療の利用〔全ての原因による救急診療部(ED)受診、全入院〕とし、副次評価項目は有害事象〔身体疾患による入院、心血管疾患(CVD)による入院、錐体外路症状〕とした。

統合失調症での入院が47%、自殺企図が44%減少

 解析の結果、経口薬使用期間と比べてLAIA使用期間では主要評価項目のリスクが有意に低く、精神疾患による入院で48%〔全体の追跡期間中の発生1万9,283例、発生率比(IRR)0.52、95%CI 0.50~0.53〕、統合失調症による入院で47%(同1万8,385例、0.53、0.51~0.55)、自殺企図で44%(同1,453例、0.56、0.44~0.71)、全入院で37%(同2万973例、0.63、0.61~0.65)のリスク低下が認められた(全てP<0.001)。ただし、ED受診については有意差がなかった(同2万2,013例、0.99、0.97~1.00、P=0.09)。

 副次評価項目についても同様に、身体疾患による入院で12%(全体の追跡期間中の発生1万5,396例、1RR 0.88、95%CI 0.85~0.91、P<0.001)、CVDによる入院で12%(同3,710例、0.88、0.81~0.96、P=0.006)、錐体外路症状で14%(同2万2,182例、0.86、0.82~0.91、P<0.001)の有意なリスク低下が認められた。

 これらのリスク低下効果は、各治療の最初の90日間を除外後の解析でも維持されており、Wei氏らは「LAIAの長期使用を支持するものだ」と考察している。

高齢者や物質使用者でもリスク低下

 サブグループ解析では、LAIAの使用開始が遅かった患者と比べ、早期からの使用者でこれらのリスク低下幅が大きかった。また、65歳超の高齢患者、アドヒアランス不良や再燃反復のリスクが高い物質使用障害を有する患者でも、同様のリスク低下が認められた。

 以上の結果から、Wei氏らは「統合失調症患者に対するLAIAの長期使用をより広く検討すべきであり、特に発症早期から使用を開始すべき」と結論。ただし、高齢患者ではLAIAの使用早期(最初の90日間)に錐体外路症状のリスクが上昇していたことから、「高齢患者ではLAIAの使用開始に際して注意が必要」と付言している。

(太田敦子)