ノルウェー・Skjetten Medical CenterのHelge E. Lundberg氏らは、健康な女性66例を対象に、ヤールスバーグというノルウェーのチーズが骨代謝に及ぼす影響を検証する多施設共同ランダム化比較試験を実施。ヤールスバーグチーズまたはカマンベールチーズ摂取を6週間継続させた。その結果、ヤールスバーグチーズ摂取群でのみ骨代謝マーカー(BTM)などが改善し、同チーズに特異的な効果であることが示されたとBMJ Nutr Prev Health(2022年8月2日オンライン版)に報告した。
ヤールスバーグ群41例、カマンベール群25例にランダムに割り付け
ヤールスバーグは、ノルウェーを代表するチーズ。成分はカマンベールチーズと似ているが、ビタミンK2と1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸(DHNA)が豊富に含まれる点が特徴的だ。
これまでに、ヤールスバーグチーズの摂取により骨芽細胞で合成されるオステオカルシン(OC)値が上昇することが報告されている。しかし、その効果がヤールスバーグチーズ独自のものかどうかは不明だった。そこでLundberg氏らは今回、ヤールスバーグチーズの摂取によるBTMへの影響がこのチーズ独自のものであるかを検証するため、セミクロスオーバーデザインを用いたランダム化比較試験を実施した。
対象は、健康な女性66例(平均年齢33.6歳、平均BMI 24.3)。ヤールスバーグチーズを1日57g摂取する群(ヤールスバーグ群41例)またはカマンベールチーズを1日25~50g摂取する群(カマンベール群25例)に3:2でランダムに割り付けた。カマンベール群は6週間後にヤールスバーグチーズの摂取に切り替えた。6、12週間後に血液検査を実施した。
主要評価項目は、Ⅰ型プロコラーゲン-N-プロペプチド(P1NP)、血清tOC〔カルボキシル化OC(cOC)+低cOC(ucOC)〕、cOC、オステオカルシン比(cOC/ucOC;Ro)とした。副次評価項目は、血清I型コラーゲン架橋C-テロペプチド(CTx)、ビタミンK2、生化学検査項目とした。
ヤールスバーグ摂取で骨形成マーカー、ビタミンK2が有意に上昇
分析の結果、tOC(平均)は、ヤールスバーグ群ではベースライン時の21.4ng/mL(95%CI 16.6~26.2ng/mL)から6週後には25.8ng/mL(95%CI 21.0~30.6ng/mL)へ有意に上昇した(P<0.01)。一方、カマンベール群では23.3ng/mL(95% CI 13.7~32.8ng/mL)から21.3ng/mL(同13.3~29.3ng/mL)へわずかに低下したが、ヤールスバーグ摂取に切り替え後、25.1ng/mL(同18.8~31.4ng/mL)へと有意に上昇した(P<0.05)。
cOC、Roについても同様に、ヤールスバーグ群ではベースライン時と比べ6週後に有意な上昇が認められた(全てP<0.01)。カマンベール群では変化がなかったが、ヤールスバーグ摂取に切り替え後、いずれも有意に上昇した(cOC:P<0.01、Ro:P=0.04)。
P1NP値(平均)は、ヤールスバーグ群ではベースライン時の61.1±27.5ng/mL(95%CI 52.4~69.7ng/mL)から6週後には69.1±34.9ng/mL(同58.1~80.2ng/mL)へ有意に上昇(P<0.01)。カマンベール群では不変だったが、ヤールスバーグ摂取に切り替え後に上昇傾向が認められた。
ビタミンK2はヤールスバーグ群ではベースライン時と比べ6週後に有意な上昇が認められた(P<0.01)。カマンベール群では有意に低下したが(P=0.04)、ヤールスバーグ摂取に切り替え後、有意な上昇が認められた(P<0.01)。
CTxは両群とも不変だった。
脂質、Hba1cも改善
総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪は両群でベースライン時と比べ6週後にわずかに上昇。しかし、カマンベール群ではヤールスバーグ摂取への切り替え後、総コレステロール、LDLコレステロールが有意に低下した(全てP<0.01)。
ベースライン時と比較した6週後のHbA1cは、ヤールスバーグ群で有意に低下(P<0.01)。一方、カマンベール群では有意に上昇したが(P=0.05)、ヤールスバーグ摂取に切り替え後、有意に低下した(P<0.01)。
血清カルシウム濃度と血清マグネシウム濃度は、ヤールスバーグ群で有意に低下(P=0.05)。カマンベール群では不変だったが、ヤールスバーグ摂取への切り替え後、血清カルシウム濃度は有意に低下した(P=0.03)。Lundberg氏らは「血清カルシウム濃度と血清マグネシウム濃度の低下は、骨形成の亢進によるものではないか」と推察している。
以上から、同氏らは「ビタミンK2とDHNAが豊富なヤールスバーグを1日57g、6週間摂取したところ、tOC、cOC、Ro、P1NPが増加し、血清カルシウム濃度、血清マグネシウム濃度、HbA1cが低下した。これら骨代謝や血糖、脂質への影響は、ヤールスバーグチーズに特異のものである」と結論。「ヤールスバーグチーズが骨粗鬆症の予防や治療に推奨可能かについては、さらなる研究で検証する必要がある」と付言している。
(比企野綾子)