大気汚染への曝露は、心血管疾患(CVD)リスクを上昇させたり、急性心筋梗塞(AMI)を誘発させたりするが、長期的な予後との関連はデータが不十分という。韓国・Korea University College of MedicineのSe Yeon Choi氏らはAMI患者の1年後の臨床転帰と大気汚染との関連を検討、結果をPLoS One(2022; 17: e0272328)に報告した(関連記事「大気汚染問題を医学の重要テーマに!」)。
4万6,000例超のAMI患者を解析
アジア諸国でとりわけ深刻な大気汚染は、世界では毎年420万人が死亡し、呼吸器系疾患だけでなく急性および慢性疾患との関連が指摘されている。さらにCVDリスク、AMI誘発、肺や全身の炎症を介したCVD死亡との関連も報告されている。Choi氏らは以前、AMI患者の短期的な臨床転帰と大気汚染の関連を報告しているが、長期的な臨床転帰については十分なデータが見当たらないとして、両者の関連を検討した。
対象は、韓国で2006年1月〜15年12月に5万130例のAMI患者が登録された2件の前向き研究〔Korea Acute Myocardial Infarction(KAMIR)、KAMIR-National Institutes of Health(KAMIR-NIH)〕データ。2006年以前の有症状例や治癒例などを除外し、4万6,263例を解析した。
対象の主な背景は平均年齢が63.8歳、男性が72.1%、平均BMIが24.0、ST上昇型心筋梗塞(MI)が54.3%、虚血性心疾患既往は15.5%で、3.9%が搬送前に心肺蘇生を受け、86.7%が経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を最初の治療として受けていた。AMIは臨床症状、心電図変化、新規虚血の徴候、心筋逸脱酵素の上昇などを基に判断。CVDリスクである高血圧、脂質異常症、糖尿病、CVD既往、心不全、脳血管疾患既往、喫煙歴などは患者申告に基づいた。
大気汚染の評価は、韓国環境部のAire Koreaウェブサイトを参照し、329カ所の微小粒子状物質(PM2.5)データを収集。追跡期間中の汚染物質の平均濃度は二酸化硫黄(SO2)が0.049ppm、一酸化炭素(CO)が0.5882ppm、オゾン(O3)が0.0216ppm、二酸化窒素(NO2)が0.0253ppm、粒子状物質PM10が48.88μg/m3、PM2.5が24.01μg/m3であった。
全死亡は30日以内が大半、SO2およびPM10と関連
追跡1年間の全死亡は3,469例(CVD死2,981例)で、血行再建術は1,776例に発生。Cox比例ハザードモデルにより、1年間の各汚染物質の平均濃度と全死亡および血行再建術リスクを求めた。
その結果、全死亡では汚染物質との有意な関連は認められず、COではリスクの低下が示され〔1ppm上昇ごとのハザード比(HR)0.938、95%CI 0.884〜0.994〕、血行再建術ではSO2 (同1.113、1.054〜1.175)、CO(同1.136、1.067〜1.210)、PM10(1μg/m3上昇ごとのHR 1.020、95%CI 1.012〜1.028)との関連が認められた。
また、大半の全死亡が発生した30日以内について、同様に検討したところ、SO2(1ppb上昇ごとのHR 1.084、95%CI 1.016〜1.157、)およびPM10(1μg/m3上昇ごとのHR 1.011、1.002〜1.021)のリスク上昇が認められた。30日〜1年でも同様の傾向が示された(SO2:1ppb上昇ごとのHR 1.084、95%CI 1.003〜1.172、PM10:1μg/m3上昇ごとのHR 1.021、同1.009〜1.033)。
以上から、Choi氏らは「AMI患者において、長期的な臨床転帰と複数の大気汚染物質との関連が示唆された。高濃度の大気汚染物質への曝露を予防する戦略が必要」との見解を示している。
(松浦庸夫)