慶應義塾大学ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座特任教授の岸本泰士郎氏らは、自然言語処理(NLP)を用いた会話型・認知症診断支援人工知能(AI)プログラムを開発。高齢者と医療者の間で交わされる自由な会話を基に、AIが認知症の可能性を検知するもので、正確度は90.0%だったと、Sci Rep2022; 12: 12461)に発表した。

432回の自由会話で精度を検証

 高齢化の進展に伴い日本では認知症患者が増え続け、2025年には730万人に達し、高齢者の約5人に1人の割合になると推計されている。そのため、認知症対策は重要な社会的課題の1つとなっている。

 認知症は通常、問診、画像検査、記憶や計算など複数の認知機能検査によって診断する。しかし、これらの検査は専門性が高く、検査を担当する医療従事者が訓練を受ける必要がある、検査に時間がかかるといった問題がある。

 認知症は記憶力や注意力の他、言語機能にも悪影響が及ぶことが知られている。そこで岸本氏らは、認知症・軽度認知障害(MCI)を含む45歳以上の135人(平均年齢74.6歳、女性57.0%)から計432回の自由会話を収集し、教師データとしてNLPの技術を駆使し機械学習を行い、会話型・認知症診断支援AIプログラムを開発。認知症判定におけるAIプログラムの精度を検証した。

被験者の学習効果が回避可能

 その結果、認知症判定におけるAIプログラムの正確度は90.0%、感度は88.1%、特異度は91.6%、受信者動作特性(ROC)曲線下面積(AUC)は0.935だった。精度の実現には、3~5分程度の発話で得られる語彙数があれば十分であることも示された。

 岸本氏らは、開発したAIプログラムについて「記憶や計算などの検査を行うことなく、高い精度で認知症の判定が可能であることが示された。そのため、検査を繰り返すことで被験者が内容を覚えてしまい精度が低下する『学習効果』が回避できる」と評価。スクリーニング検査としての実用化に期待を寄せている。

(比企野綾子)