カナダ・University of TorontoのAnthony E. Lang氏らは、早期パーキンソン病(PD)患者357例を対象に、PD発症において重要な役割を果たす蛋白質であるαシヌクレインの異常凝集体に結合するモノクローナル抗体cinpanemabの有効性と安全性を二重盲検第Ⅱランダム化比較相試験で検討し、結果をN Engl J Med(2022; 387: 408-420)に発表した。PDの疾患修飾薬として期待されるcinpanemabだが、投与開始後52週時点の運動症状、非運動症状、日常生活機能、QOL、画像バイオマーカーに関してプラセボとの有意差は示されなかった。なお、試験は72週時点の中間解析後に有効性の欠如により中止された。
MDS-UPDRS総合スコアで評価
同試験では、40~80歳の早期PD患者357例(平均年齢60.1歳、男性70%、白人91%)をプラセボ群(100例)、cinpanemab 250mg群(55例)、1,250mg群(102例)、3,500mg群(100例)に2:1:2:2でランダムに割り付け、4週に1回の間隔で52週間点滴静注した。その後は用量を盲検化した延長期間として、cinpanemabの3群はそのまま投与を継続(早期開始群)、プラセボ群はcinpanemab 250mg群、1,250mg群、3,500mg群に1:2:2でランダムに割り付けて投与した(遅延開始群)。
主要評価項目は、運動症状および非運動症状の総合評価尺度であるMovement Disorder Society Unified Parkinson's Disease Rating Scale(MDS-UPDRS)改訂版の総スコア(範囲0~236、高スコアほど機能不良)の52週および72週時点におけるベースラインからの変化量とした。
解析の結果、MDS-UPDRS総スコアの52週時点の変化量は、プラセボ群の10.8ポイントに対しcinpanemab 250mg群で10.5ポイント(プラセボ群との調整後平均差-0.3ポイント、95%CI -4.9~4.3ポイント、P=0.90)、1,250mg群で11.3ポイント(同0.5ポイント、-3.3~4.3ポイント、P=0.80)、3,500mg群で10.9ポイント(同0.1ポイント、-3.8~4.0ポイント、P=0.97)といずれも有意差が認められなかった。
72週の変化量についても、プラセボ群(遅延開始群)との調整後平均差はcinpanemab 250mg群で-0.9ポイント(95%CI -5.6~3.8ポイント、P=0.70)、1,250mg群で0.6ポイント(同-3.3~4.4ポイント、P=0.78)、3,500mg群で-0.8ポイント(同-4.6~3.0ポイント、P=0.70)と同様に有意差が認められなかった。
DaT-SPECT画像上の線条体結合でも差なし
副次評価項目としたMDS-UPDRSの運動症状および非運動症状サブスケールのスコア変化量、ドパミントランスポーターSPECT(DaT-SPECT)で評価した線条体結合率の変化などに関しても、いずれのcinpanemab群でもプラセボ群との差は認められなかった。
52週までの有害事象の発現率はプラセボ群で80%、cinpanemab群全体で82%だった。cinpanemab群全体で最も発現率が高かった有害事象は頭痛(18%)、次いで鼻咽頭炎(13%)、転倒(10%)の順で、大部分は軽度~中等度だった。
試験中止に関する事前の設定はなかったが、72週時点の中間解析結果を踏まえ、試験は有効性の欠如を理由に中止された。
失敗原因は介入時期か、より早期の治療を検討すべき
PD治療の中心となっているドパミン補充療法は、症状の改善という点でベネフィットが大きいものの進行は抑制せず、治療が長期に及ぶとレボドパ耐性症状が出現する。そのため、cinpanemabを含む各種の疾患修飾薬の研究が行われているが、Lang氏らは「今回の結果は、細胞外αシヌクレインを標的とする抗体による単独療法では、PDの進行を抑制できない可能性が高いことを示している」と結論している。
プラセボと比べてcinpanemabの有効性が認められなかった一因として、同氏らは治療のタイミングを指摘し、「細胞移植を受けたPD患者の剖検結果から示唆されるように、疾患の早期にαシヌクレインオリゴマーが細胞内に侵入し、緩徐に細胞機能障害へと進行している可能性がある。それを踏まえると、PDのプレクリニカル期またはプロドローマル期における治療を検討することが重要であろう」と述べている。
(太田敦子)