新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の死亡率と新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による血小板の過剰な活性化を伴う肺血管病理には強い相関があり、COVID-19剖検例の肺組織における細胞浸潤および微小血栓を伴う血管内皮傷害などの特徴が明らかになっている。特に肺血栓は致命的な病態として知られている。千葉大学の研究グループは、COVID-19死亡例の肺組織検体と血液検体を用いて血管炎および免疫血栓症の病態を調べたところ、SARS-CoV-2の集積、血小板活性化因子トロンボスポンジン(TSP)-1を特異的に産生する非定型単球の出現と、ミオシン軽鎖(Myl)9含有血栓形成を伴う滲出性血管炎が惹起されることを発見。血小板活性化により血中Myl9濃度が上昇すること、さらには血中Myl9濃度が臨床的なCOVID-19の重症度と相関することをProc Natl Acad Sci USA (2022; 119: e2203437119)に報告した。

死亡例の肺動脈にSARS-CoV-2蓄積を伴う滲出性血管炎が

 研究グループはSARS-CoV-2感染が局所炎症部位および全身免疫系に及ぼす影響を評価するため、COVID-19死亡例の剖検標本を分析。肺動脈血管壁にSARS-CoV-2のスパイク蛋白質に対する免疫反応性が見られた。詳細に調べたところ、中膜にSARS-CoV-2粒子が認められ、浮腫を伴う滲出性血管炎を呈していることが分かった。また、COVID-19死亡例の肺にはTSP-1発現CD163陽性非定型単球が浸潤しており、炎症局所において血小板活性化が誘導されることが示唆された。

 滲出性血管炎を呈する動脈には微小血栓の形成が見られ、血小板由来のミオシン蛋白質の制御成分であるMyl9/12の沈着が検出された。これらのことから、SARS-CoV-2感染による血管炎が血小板を活性化し、Myl9の放出および炎症組織周辺の微小血管における網目状構造の形成につながると考えられた。

Myl9は重症度マーカーだけでなく治療ターゲットとしても有望

 そこで研究グループは、血液中のMyl9濃度に着目し、2020年7月下旬〜21年3月にRT-PCRによりSARS-CoV-2感染が確定診断された20歳以上のCOVID-19入院患者123例における血中Myl9濃度をELISA法で調べた。

 まず、血中Myl9濃度とCOVID-19の関連を調べたところ、血中Myl9濃度は健康人および敗血症患者、心臓血管手術患者と比べCOVID-19患者DE有意に高かった(図-左)。

 次に、CODID-19重症度との相関性を検討した。患者を重症度で4群に分け血中Myl9濃度を比較したところ、性と年齢を調整後も血中Myl9濃度は重症度が高い群ほど高値であること(図-中)、入院日数と相関することが明らかになった(図-右)。

図. COVID-19患者における血中Myl9濃度の臨床的意義

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(千葉大学プレスリリースより)

 COVID-19患者と健康人の血中Myl9濃度の受信者動作特性(ROC)曲線を求めると、曲線下面積(AUC)は0.964で、カットオフ値は39.4ng/mL(感度97.5%、特異度83.3%)だった。また、血中Myl9濃度と血液マーカーの相関をSpearmanの順位相関係数(r)を用いて検討したところ、好中球数(r=0.742)、白血球数(r=0.742)、乳酸脱水素酵素(LDH)値(r=0.575)、インターロイキン(IL)-8(r=0.500)、D-ダイマー(r=0.466)と正の相関が認められた(全てP<0.0001)。

 これらの知見から、血中Myl9濃度はCOVID-19に関する早期からの重症化判定および予測のマーカーとして有用と考えられた。今後の展望として血中Myl9濃度の簡易測定キットの開発、さらにはヒト型Myl9を標的とした新規治療法の開発。また、ヒト型Myl9抗体の作製に成功していることから、Myl9はCOVID-19による血栓症や血管炎予防の治療標的となりうるとしている。

編集部