日本では高齢化による人口減が進み、増大する地域医療ニーズの担い手が求められている。現在、国内には約6.1万店舗の薬局とそこに従事する約19万人の薬剤師がおり、その活用が必要とされる。厚生労働省は2015年10月に「患者のための薬局ビジョン」を策定。「門前からかかりつけ、そして、地域へ」の方針を掲げ、2025年までに全ての薬局が、かかりつけ薬局の機能を持つことを目指している。この実現に向けた現況を踏まえ、今年(2022年)2月に「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」の下に、「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ(WG)」を設置。これまでに全7回の議論を経て、7月に具体的な対策(アクションプラン)のとりまとめが公表された。8月5日に同部会(部会長:東京医科大学茨城医療センター病院長・福井次矢)で、とりまとめの振り返りと今後の方針が議論された。
焦点となる対人業務の充実、対物業務の効率化
薬局薬剤師WGのとりまとめの基本的な考え方として、「対人業務のさらなる充実」、「ICT科への対応」、「地域における役割」の3つが基となっている。これらのアクションプランとして、①対人業務の充実、②対物業務の効率化、③薬剤師DX、④地域における薬剤師の役割-の4つがそれぞれ挙げられている。
特に①薬剤師の対人業務に関して、これまで薬局薬剤師は処方箋応需時の対応を主体としてきたが、今後は処方箋受付時以外の対人業務の充実が求められている。 主に調剤後のフォローアップの強化、医療計画における5疾病(がん、脳卒中、心筋梗塞などの心血管疾患、糖尿病、精神疾患)の強化、リフィル処方箋への対応などが、推進すべき対人業務とされている(図1)。
図1. 今後、予定される薬局薬剤師の対人業務
しかし、これまでに対人業務をしっかり行っている薬剤師がいる一方で、全体的に見ると十分とは言い難いとされ、処方箋の調剤以外の対人業務をほとんど行われていない薬局もあるという。そのため、好事例の均霑化に向けた取り組みが重要であり、今後、課題の収集・分析を実施すべきとされている。また、対人業務に必要なスキルの習得として、勉強会や症例検討会の開催・参加、地域の薬剤師会などが中心となり、地域の基幹病院などとの連携が検討されている。
続いて、②対物業務の効率化については、対人業務の効率化のためにも不可欠である。これまでに規制改革推進会議などで、調剤業務の一部外部委託や処方箋40枚規制(薬剤師員数の基準)の撤廃、業務の効率化として、薬剤師以外の職員の活用(0402通知)、調剤機器の活用、院外処方箋における事前の取り決め(プロトコール)に基づく問い合わせの簡素化について議論されてきた。
調剤業務の一部外部委託の大前提では、患者が医療安全(医薬品の安全使用)や医薬品へのアクセスを脅かされてはならないことが挙げられ、地域医療への影響などは未知数である。そのため効果や影響などを検証するという観点から適切な範囲で開始し、検証後に見直しを行うこととしている。現時点での一部外部委託の対応方針は以下、4つとしている。
1. 外部委託:対象となる業務は当面の間、一包化(直ちに必要とするもの、散剤の一包化を除く)とすることが適当
2. 委託先:当面の間、同一の三次医療圏内
3. 安全性:医療安全が確保されるよう、EUのADDガイドライン〔Automated Dose Dispensing: Guidelines on best practice for the ADD process, and care safety of patients(2017 欧州評議会)〕などの海外のガイドラインなどを参考に基準を設ける必要がある
4. その他:
・委託先及び委託元における薬機法及び薬剤師法上の義務や責任について整理し、必要な見直しを行う
・外部委託を利用する場合には、患者に十分説明して同意を得る
現状では処方箋が出てから患者に渡すまでに同一の薬局で一連の業務を実施しているが、一部業務を外部委託する場合には、委託元の薬局と委託先の薬局でそれぞれ実施する業務が発生する。情報の伝達などを含め、安全性を担保した上での調整管理については今後、詳細に検討していくとした(図2)。
図2. 薬剤の一包化を外部委託した場合のプロセス及び安全性のリスク
これを受け、委員からは「調剤業務処方箋の受付、処方箋監査、薬剤の調整、調剤薬鑑査、服薬指導など一連の行為が成り立つためには薬剤師、自らが実施することで医療安全の質が担保されて責任が果たせると考えている」「一部、外部委託に関しては、まずは医療発展が確実に担保できることを前提に、医療の質向上に結びつくのか、薬局の機能強化、薬剤サービス向上に結び付くのかが重要」「調剤業務の外部委託は、大きな仕組みの変化になるため、国民や患者の視点に立った検討が必要」との指摘や「議論の方向性が、業務の効率化から"時間"の効率化に向かっているのでは」と懸念する声もあった。
処方箋の40枚規制の方向性について
現状の診療報酬の体系は処方箋受付時の評価が中心となっており、完全に40枚規制を撤廃、緩和すると、処方箋の応需枚数を増やすために対人業務が軽視される危険性がある。したがって、WGでは見直しの検討を行う場合には、診療報酬における評価なども含め、対人業務の充実に逆行しないように慎重に行うべきとされた。
しかしながら、「医療の高度化、調剤業務の複雑化、薬剤師1人当たりの処方箋受付枚数は年々減少傾向にある。平均して薬剤師1人当たりの16~20枚。現場の実感としても1人当たり1日約20枚の調剤が精一杯ではないか」「今後、さらなる対人業務の充実を目指す中で薬局業務の質を担保する規制が必要であり、40枚規制の見直しの必要性は理解ができない」との意見が述べられた(図3)。
図3. 規制対象の40枚を満たす者は少数、30枚超は約17%
(図1~3とも医薬品医療機器制度部会発表)
※眼科、耳鼻咽喉科受付枚数が40および歯科では薬剤師1人あたり60枚が上限であるため、40枚を超える薬局が一定数存在する。このようなことから、調査データでは各薬局における基準への充足率の判断はできない。
同会ではICTやDX、地域における役割の他、医療の質の向上、健康増進、地域医療体制の確保のために前提である「患者のための薬局ビジョン」における、かかりつけ薬局がなかなか進展しない実状にも触れられた。また、門前薬局や敷地内薬局の在り方、病院薬剤師の偏在についても議論が深まるなど、今後も議論の内容を踏まえて、調査・検討を進めていく予定とした。
(小野寺尊允)