イタリア・Istituto di Ricerche Farmacologiche Mario Negri IRCCSのCarlotta M. Jarach氏らは、世界における耳鳴りの有病率と発生率を推定するためシステマチックレビューとメタ解析を実施。その結果、成人の耳鳴り有病者数は7億4,000万人に上り、うち高齢者を中心とする1億2,000万人が重度の耳鳴りを抱えていることが分かったと、JAMA Neurol2022年8月8日オンライン版)に報告した。

メタ解析的アプローチをとった初の系統的レビュー

 耳鳴りは多因子性病因、関連疾患、多様な症状、評価の主観的性質により分類して適切なデータを収集することが困難で、縦断的な研究は少ない。システマチックレビューは2016年にMcCormackらが耳鳴りの世界的有病率のデータを収集したものが最後で、現在まで耳鳴りの有病率と発生率を推定したシステマチックレビューとメタ解析の報告はない。

 そこでJarach氏らは今回、耳鳴りの世界的な有病率と発生率を推定する目的でPubMed、MEDLINE、EMBASEに2021年11月19日までに掲載された論文を検索し、システマチックレビューおよびメタ解析を実施した。

 今回の研究では、2つのレビューを実施。1つは既に公表されたメタ解析、プール解析、システマチックレビューを特定するアンブレラレビューで、もう1つはアンブレラレビューで特定された結果に関する論文のレビューである。

 論文の選択基準は一般集団における研究とし、患者または特定の生活習慣を持つ集団のサブグループに基づく研究は除外した。日付、年齢、性、国による制限は設けなかった。

 メタ解析では、研究の種類、時間と場所、評価項目、集団の特徴、耳鳴りの定義に関連するデータを抽出。耳鳴りの発生率と有病率の推定値を算出するためランダム効果モデルを用いた。研究間の異質性はX2検定を、非一貫性はI2検定をそれぞれ用いて測定した。

 767件の論文のうち、1972~2021年に掲載された113件を適格論文として特定、89件をメタ解析に用いた。そのうち、83件から有病率推定値、12件から発生率推定値を抽出した。

耳鳴りの有病率は14.4%、高齢になるほど高い

 プール解析の結果、成人における耳鳴りの有病率は14.4%(95%CI 12.6~16.5%)で、4.1%(同3.7~4.4%)〜37.2%(同34.6~39.9%)と研究によってばらつきが見られた。

 性によって推定有病率に有意差はなかった〔男性:14.1%(95%CI 11.6〜17.0%)、女性:13.1%(同10.5〜16.2%)〕。年齢層別に有病率を見ると、5~17歳は13.6%(95%CI 8.5~21.0%)で、それ以上の年齢層では年齢が上がるにつれて有意に上昇した〔18~44歳:9.7%(同7.4~12.5%)、45~64歳:13.7%(同11.0~17.0%)、65歳以上:23.6%(同19.4~28.5%)、異質性のP<0.001〕。

 重度の耳鳴りの有病率は2.3%(95%CI 1.7~3.1%)で、0.5%(同0.3~0.7%)~12.6%(同11.1~14.1%)の幅が見られた。慢性的な耳鳴りの有病率は9.8%(同4.7~19.3%)で、診断を受けた耳鳴りの有病率は3.4%(同2.1~5.5%)だった。

 有病率の推定値を絶対数に変換すると、耳鳴りのある成人は世界で7億4,900万人(95%CI 6億5,500万~8億5,800万人)、重度の耳鳴りのある成人は65歳以上の高齢者を中心とする1億2,000万人(同8,800万~1億7,700万人)であった。

 耳鳴りの発生率は、10万人・年当たり1,164(95%CI 479〜2,828)であった。

 以上から、Jarach氏らは「全世界で約7億4,000万人の成人が耳鳴りを有しており、うち約1億2,000万人は重度であることが示された。耳鳴りによる世界の疾病負担は片頭痛や疼痛と同様に大きく、有効な治療選択肢がないことから、この分野の研究により投資する必要がある」と述べている。

今手麻衣