ブラジル・Hospital de Clínicas de Porto Alegre/Universidade Federal do Rio Grande do SulのDouglas T. Leffa氏らは、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の成人患者64例を対象に、在宅で行う経頭蓋直流電気刺激(tDCS)療法の有効性と安全性を二重盲検シャム対照ランダム化比較試験で検討。その結果、1日30分間の在宅tDCS療法を4週間継続した群では、シャム刺激群と比べて不注意症状が有意に改善し、34.3%が不注意スコア30%改善を達成したとJAMA Psychiatry2022年8月3日オンライン版)に発表した。

右背外側前頭前野へ興奮性増強の陽極刺激

 対象は、Clinician-administered version of the Adult ADHD Self-report Scale version 1.1(CASRS)の不注意症状の評価尺度(CASRS-I)スコア(範囲0~36点、高いほど症状が重い)が21点以上で中等度~重度の不注意症状を有し、精神刺激薬を投与していない成人ADHD患者64例(平均年齢38.3歳、男性53.1%、不注意優勢型48.4%、複合型51.6%)。対象を在宅tDCS群とシャム刺激群に1:1でランダムに割り付け、1日30分間の刺激治療を4週間、計28回実施した。

 在宅tDCS療法では、電極サイズ35cm2(7cm×5cm)の陰極と陽極をそれぞれ頭皮に装着し、直流2mA電流により右の背外側前頭前野(DLPFC)への興奮性を増強する陽極刺激を行った。tDCSの研究は左DLPFCを刺激の標的とするものが多いが、Leffa氏らは「成人ADHD患者では注意を要する課題の遂行時に右DLPFCの活動低下が見られるため、同領域を標的とした」と説明している。

 主要評価項目はCASRS-Iスコアで評価した不注意症状とした。

多動性・衝動性、不安・抑うつ症状では有意差なし

 解析の結果、治療開始後4週時点の平均CASRS-Iスコアは、シャム刺激群の23.63点(標準偏差3.97点)と比べて在宅tDCS群では18.88点(同5.79点)と低かった。

 線形混合効果モデルによる解析では、治療と時間の有意な交互作用が認められ(固定効果係数β interaction=-3.18、95%CI -4.60~-1.75、P<0.001)、シャム刺激群と比べて在宅tDCS群では4週間にわたり不注意症状が有意に減少したことが示された。

 Cohenの効果量dは1.23(95%CI 0.67~1.78)と算出された。

 また、CASRS-Iスコアの30%低下を達成した患者は、シャム刺激群の2例(6.2%)に対し在宅tDCS群では11例(34.3%)と多かった。

 一方、副次評価項目とした多動性・衝動性症状、不安症状、抑うつ症状に関は両群で有意差が認められなかった。

主な有害事象は刺痛感、発赤、頭痛、頭皮熱傷

 有害事象はシャム刺激群に比べて在宅tDCS群で多かったが、大半は軽度で重篤な有害事象はなかった。

 発現率が最も高かった有害事象はちくちくと刺すような痛み(在宅tDCS群75%、シャム刺激群81.3%)、次いで皮膚の発赤(同59.4%、46.9%)、頭痛(同53.1%、34.4%)、頭皮熱傷(同50%、31.3%)の順だった。

 以上を踏まえ、Leffa氏らは「在宅tDCS療法は安全で忍容性が高く有効な治療法であり、精神刺激薬を使用していない成人ADHD患者の不注意症状に対し、薬物療法に代わる治療法になりうることが示された」と結論。「tDCS療法は毎日通院が必要である点が大きな課題だったが、在宅tDCS療法により治療の可能性が広がり、特に遠隔地の居住者や身体障害などで通院が困難な患者にとって有用である」と付言している。

(太田敦子)