今年(2022年)5月6日に英国でサル痘感染者が確認されて以降、欧州を中心に感染が拡大。中でもスペインで感染者数が急増しており、8月16日時点で5,719例と報告されている。スペイン・Hospital Universitario 12 de OctubreのEloy José Tarín-Vicente氏らは、サル痘と診断された患者の臨床的、ウイルス学的特徴などを評価する多施設前向き観察コホート研究を実施。その結果、流行中のサル痘は非定型的な症状を呈し、主な感染経路は性行為中の皮膚と皮膚の直接の接触であると、Lancet2022年8月8日オンライン版)に発表した。(関連記事『国内でも確認のサル痘、世界528例の臨床的特徴』、『サル痘、従来と異なる臨床的特徴も』)

天然痘ワクチン接種例の感染も

 サル痘の特徴は、風土病とされるアフリカでは顔や腕、脚、多くはないが手のひら、足の裏、生殖器など身体の複数領域に数百個の発疹を同時に呈し、発疹に先行して全身症状が現れるとされるが、流行中のサル痘に関して詳細な情報はほとんどない。

 そこでTarín-Vicente氏らは、2022年5月11日~6月29日にマドリードとバルセロナの3施設においてサル痘が疑われる全患者の病変部、肛門および中咽頭のスワブを採取。ハイスループット・シーケンスあるいはリアルタイムRT-PCR法によりサル痘と診断された連続患者181例を対象に調査を行った。

 12人の皮膚科医または性感染症専門医が問診で性行動や臨床症状について聞き取り調査を行った他、臨床検査でウイルス学的特徴などのデータを収集し、2022年7月13日まで追跡した。

 サル痘感染者181例中175例(97%)が男性で、166例(92%)がゲイ、バイセクシュアル、男性間性交渉者(MSM)、15例(2%)が異性愛者の男性または女性であった。

 年齢中央値は37.0歳(19.0〜58.0歳)。天然痘ワクチンを接種していたのは32例(18%)。HIV陽性者は72例(40%)で、そのうち99%が抗レトロウイルス療法を受けており、11%はCD4陽性細胞数500/μL未満であった。31例(17%)が性感染症を併発していた。ウイルスの潜伏期間は中央値7.0日(1.0〜19.0日)だった。

 同氏らは「潜伏期間が比較的短いため、リスクの高い集団へのワクチン接種は、曝露後よりも曝露前の方が効果的である可能性が高い。ただ、小児期に天然痘ワクチンを接種している32例がサル痘に感染しており、現在の流行に対する天然痘ワクチン接種の予防効果についてはさらなる調査が必要である」との見解を示した。

全例に皮膚病変、8割弱が肛門・生殖器領域

 皮膚病変が全例に認められ、141例(78%)で肛門・生殖器領域、78例(43%)で口腔・口周囲領域に病変があった。皮膚病変数は166例(92%)が20個以下。153例(85%)で病変部位に関連した局所的なリンパ節腫脹が観察された。少なくとも1つの全身症状が160例(88%)に認められ、その半数強が発疹前の出現だった。

 鎮痛薬などの治療を要する合併症を70例(39%)が発症した。直腸炎45例(25%)、扁桃炎19例(10%)、陰茎浮腫15例(8%)、細菌性皮膚膿瘍6例(3%)、発疹8例(4%)で、入院を要したのは3例(2%)だった。

 このように現在流行中のサル痘は非定型的な症状を呈する可能性があるため、特に感染リスクが高い地域や曝露の可能性がある地域において臨床医はサル痘を疑う閾値を低く設定する必要があるという。

合併症の発症部位が性的接触の種類に関連

 MSM 166例のうち108例(65%)が受容性肛門性交を報告した。直腸炎を発症した45例中41例が受容性肛門性交者であったこと、扁桃炎を発症した19例中18例が受容性口腔性交を報告したことから、合併症の発症部位と性的接触の種類は関連していることが示唆された。

 皮膚病変部から採取された180件のスワブのうち178件(99%)が陽性、咽頭から採取された117件のスワブのうち82件(70%)が陽性であった。ウイルス量は、咽頭部よりも皮膚病変部の方が有意に多かった〔平均サイクル閾値±標準偏差(SD):咽頭部32±6 vs. 皮膚病変部23±4、絶対差9、95%CI 8~10、P<0.0001〕。

 Tarín-Vicente氏らは「合併症の発症部位と性的接触の種類との関連と併せて、咽頭に比べ皮膚病変でウイルス量が多かったことから、現在の流行では主要な感染経路として性行為中の皮膚と皮膚の直接的な接触の可能性が強く考えられる。これは性的ネットワークを通じてサル痘が蔓延するリスクが高まっていることを示している」と指摘。「飛沫感染が関連しているかどうかについては、さらに調査して判断する必要がある」と付言している。

(宇佐美陽子)

変更履歴(2022年8月19日):平均サイクル閾値に誤りがあったため訂正しました