末梢動脈疾患(PAD)を対象としたランダム化比較試験(RCT)LITEのpost hoc解析から、下肢疼痛などの虚血性症状が誘発されるペースで行う高強度歩行運動は、下肢症状が出ない低強度歩行運動と比べて歩行速度や下肢機能を改善することが示された。米・Northwestern UniversityのMichael M. Hammond氏らがJ Am Heart Assoc(2022; 11: e025063)に報告した(関連記事「疼痛伴わないとPADの歩行能は改善しない」)。

主解析では6分間歩行距離の延長効果示す

 歩行運動療法は下肢PAD患者に対するファーストライン治療として位置付けられているが、下肢の虚血性症状が歩行運動療法の障壁となるケースは少なくない。そのため、複数の研究で下肢症状が出ないペースでの歩行運動の有効性が検討されている。しかし、下肢症状が誘発されるペースでの歩行運動が下肢機能に及ぼす影響については不明だった。

 こうした中、LITE試験では、下肢PAD患者を疼痛などの虚血性症状が誘発されるペースで歩行運動を行う群(高強度運動群)、虚血性症状のない快適なペースで歩行運動を行う群(低強度運動群)、歩行運動を行わない群(非歩行運動群)の3群にランダムに割り付け、12カ月間の介入後の6分間歩行距離の延長効果を比較。低強度運動群と比べて高強度運動群では歩行距離が有意に延長した(P<0.001)一方、低強度運動群と非歩行運動群に有意差は認められず(P=0.44)、PAD患者の歩行の改善には疼痛を伴う高強度歩行運動の方が有効であることが示された。

 Hammond氏らは今回、4m歩行速度(通常ペースでの歩行と最も速いペースでの歩行)および①立位バランス、②歩行、③椅子立ち上がり動作ーの 3つのテストで構成されるShort Physical Performance Battery(SPPB)などにおける高強度歩行運動の効果について検討するため、同試験のpost hoc解析を実施した。

 解析対象は、ベースライン時と比べた6カ月時および12カ月時の4m歩行速度とSPPBの変化量のうち、1つ以上の評価項目に関する報告があった264例(平均年齢69歳、女性48%、黒人61%)。内訳は低強度運動群が101例(38%)、高強度運動群が109例(41%)、非歩行運動群が54例(20%)だった。

4m歩行速度とSPPBが改善

 解析の結果、低強度運動群と比べて高強度運動群では6カ月時および12カ月時の通常ペースでの4m歩行速度が有意に改善し〔6カ月時:0.056m/秒、95%CI 0.019~0.094m/秒、P<0.01、12カ月時:0.084m/秒、同0.049~0.120m/秒、P<0.01〕、6カ月時の最も速いペースでの4m歩行速度の有意な改善が示された(0.05 m/秒、同0.006~0.094m/秒、P=0.03)。また、低強度運動群と比べて高強度運動群では12カ月時のSPPBも有意に改善していた(0.821ポイント、95%CI 0.309~1.334、P<0.01)。

 一方、非歩行運動群との比較では高強度運動群で6カ月時の通常ペースでの4m歩行速度の改善が認められたが(0.066m/秒、95%CI 0.021~0.111m/秒、P<0.01)、12カ月時の4m歩行速度やSPPBには有意差はなかった。

 以上から、Hammond氏らは「虚血性下肢疼痛が誘発される高強度歩行運動は、症状を伴わない低強度歩行運動と比べてPAD患者の歩行速度およびSPPBを改善することが示された。しかし、非歩行運動群との比較では、高強度運動群における4m歩行速度の有意な改善は6カ月時のみ認められ、長期の持続は示されなかった」と結論している。

※Low Intensity Exercise Intervention in Peripheral Artery Disease

岬りり子