英・King's College LondonのE. Lin氏らは、スウェーデンの全国患者登録データを用いて男性2型糖尿病患者3万例超を11年追跡し、前立腺がんの治療に用いられるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストが男性糖尿病患者の心血管疾患(CVD)リスクに及ぼす影響を検討。その結果、GnRHアゴニストを使用していない前立腺がん合併例と比べ、同薬を使用している前立腺がん合併例ではCVDリスクが53%高かったとJAMA Netw Open2022; 5: e2225600)に発表した。

12因子に基づくCVDリスクスコアで検討

 解析対象は、2006~16年にスウェーデンのNational Diabetes Register(NDR)に登録された男性2型糖尿病患者。前立腺がんに関する情報はProstate Cancer Data Base Sweden version 4.1から収集した。

 2つのコホートを設定し、①前立腺がんと診断された男性5,714例(年齢中央値72.0歳)と前立腺がんでない男性2万8,445例(同73.0歳)のコホートで前立腺がんとCVDリスクの関連、②GnRHアゴニスト使用の男性前立腺がん患者692例(同78.0歳)と同薬非使用の男性前立腺がん患者3,460例(同74.0歳)のコホートでGnRHアゴニストの長期使用とCVDリスクの関連-を検討した。

 主要評価項目は5年CVDリスクスコアの10%上昇とした。スコアは、NDRのデータを用いて開発され妥当性が確認されている12の因子(年齢、性、糖尿病罹病期間、HbA1c、収縮期血圧総コレステロール/HDLコレステロール比、体重、身長、喫煙、アルブミン尿、心房細動、CVD既往歴)に基づくCVDリスクモデルを用いて算出した。

前立腺がん非合併例に対し25%リスク上昇

 解析の結果、前立腺がんでない男性2型糖尿病患者および前立腺がんを合併するGnRHアゴニスト非使用の男性2型糖尿病患者に対し、前立腺がんと診断されGnRHアゴニストを使用している男性2型糖尿病患者では、5年CVDリスクスコアが10%上昇するリスクがそれぞれ25%〔調整後ハザード比(aHR)1.25、95%CI 1.16~1.36〕、53%(同1.53、1.35~1.74)高かった。

 また前立腺がん非合併例に対し、合併例では、GnRHアゴニスト使用の有無に関係なく5年CVDリスクスコアが10%上昇するリスクが高かった(aHR 1.07、95%CI 1.03~1.12)。

高血圧リスクは30%低下

 一方、前立腺がんでない男性2型糖尿病患者および前立腺がんを合併するGnRHアゴニスト非使用の男性2型糖尿病患者と比べ、前立腺がんを合併しGnRHアゴニストを使用している男性2型糖尿病患者では、血圧上昇(高血圧の悪化)リスクがそれぞれ30%(aHR 0.70、95%CI 0.61~0.80)、32%(同0.68、0.56~0.82)、低かった。

 以上の結果について、Lin氏らは「前立腺がんを合併しGnRHアゴニストを使用している2型糖尿病の男性は、5年CVDリスクが高かった。今回の結果は、GnRHアゴニストを使用している2型糖尿病の男性においては、CVD危険因子を注意深くコントロールする必要があることを強く示している」と結論。「GnRHアゴニストの使用と高血圧リスク低下との関連については、さらなる研究が必要である」と付言している。

太田敦子