BCGワクチンは結核予防のため世界的に広く用いられ、既に30億〜40億人が接種し、毎年1億2,000万人の新生児が接種しているという。これまでにランダム化比較試験(RCT)や疫学調査により、BCGワクチンは上気道感染症、ハンセン病、マラリアなど多くのウイルスおよび細菌感染症の予防効果を有することが明らかになっており、この広範な感染予防効果のメカニズムについて、現在活発に研究がなされている。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大に伴い疫学的に国単位での新生児BCG接種プログラムと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)死亡の関連が注目されたが、米・Massachusetts General Hospital/Harvard Medical SchoolのDenise L. Fausetman氏らは、BCGワクチン接種が一般的でない米国における1型糖尿病患者を対象に、COVID-19に対するBCGワクチンの有効性を検証するRCTを実施。BCGワクチンの複数回接種がCOVID-19予防に有効であることを初めて実証したと、Cell Rep Med(2022年8月15日オンライン版)に報告した。
予防効果は92〜100%
BCGワクチンにはオフターゲット効果、すなわち結核予防という本来の目的を超えたウイルスおよび細菌感染症予防が示唆されている。今回のRCTは、もともとBCGワクチン複数回接種が1型糖尿病患者の免疫や代謝に及ぼす有益性を検討する目的で2015年に開始されたもので、BCGワクチンまたはプラセボを初年度は4週間隔で2回接種、その後は4年にわたり毎年1回のブースター接種を行うというスケジュールで進行中である。
研究グループは、COVID-19流行開始からSARS-CoV-2ワクチン発売までに該当する2020年1月〜21年4月の15カ月間を試験期間として、BCGワクチン接種群96例とプラセボ群48例を対象に、COVID-19およびその他の感染症予防を目的とするBCGワクチン3回以上接種の安全性と有効性を評価した。
その結果、試験終了時のCOVID-19累積発症率はBCG接種群の96例中1例(1.0%)に対し、プラセボ接種群では48例中6例(12.5%)で、COVID-19予防におけるBCGワクチン接種の効果は92%、モンテカルロ統計計算による事後確率(ワクチン有効率30%以上)は0.99であった。
現在のCOVID-19の診断基準はPCR検査に基づいているため、米食品医薬品局(FDA)が定義したCOVID-19症状が少なくとも1つあることに加えてPCR検査に基づくCOVID-19累積発症率とBCGの有効性を算出したところ、BCG接種群ではPCR陽性例はなく、プラセボ群では5例(10.4%)で、ワクチン効果は100%だった。
なお、COVID-19による死亡例は両群ともなかった。通常BCGワクチン接種では局所皮膚反応が2〜4週目に発現するが、有害事象に該当する局所反応は見られず、BCG接種に関連する全身性の有害事象も皆無だった。
初回接種から2年で感染予防効果が最大
全試験参加者のSARS-CoV-2抗体陽性率および抗体価を調べたところ、プラセボ群の方がBCG群より高く、SARS-CoV-2感染はほぼプラセボ群に限られていたことが示された。
試験期間におけるCOVID-19およびその他の感染症症状を解析したところ、1患者当たりの累積感染症症状はプラセボ群に比べBCG群で有意に少なかった。BCGワクチンの効果発現期間を感染防御の観点から検討するために、COVID-19に関する今回の試験期間と2019年12月以前の期間などを比較したところ、初回接種からおよそ2年後に感染症予防効果が最大となることが示唆された。
その他、試験参加者の感染症重症度を同一世帯の非糖尿病成人と比較したところ、BCG接種者の感染症症状は世帯人と同等または軽度だったのに対し、プラセボ接種者の多くは世帯人と比べ重度の感染症症状を呈した。1型糖尿病患者はCOVID-19が重症化するだけでなく、その他の感染症罹患リスクが高く重症化しやすいこと、BCG接種により感染症症状が最小限に抑えられることがあらためて示された。
BCGワクチンのオフターゲット効果に期待
今回の試験の意義について、Fausetman氏らは「BCGワクチンのCOVID-19予防効果を実証した最初のRCTである。COVID-19流行期のBCGワクチン単回投与に関する先行研究ではSARS-CoV-2感染防御効果もCOVID-19重症化抑制効果も示されなかったが、これはオフターゲット効果を得るには期間が短過ぎたのが原因と考えられる。さらに、われわれの試験ではin vitroで最強の効力を持ち免疫原性が高いBCG株であるTokyo 172株を使用している点も影響したと考えられる」などと考察。研究限界として、多様な人口と異なる新生児接種歴を持つ国においては、BCGワクチンの有益性が得られない可能性があると述べている。
その上で同氏らは「BCGワクチンはCOVID-19を効果的に予防し、広範な感染症予防効果を発揮することが示された。BCGワクチンは安全かつ有効で安価であり、他の感染症に対する広範な予防効果に基づき、COVID-19パンデミックにおけるウイルス変異株に対する潜在的な予防効果を有すると考えられる」と結論している。
(編集部)