新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は発症の2年後時点も、精神病性障害、認知症、認知障害(ブレインフォグ)、てんかんなどの発症リスクが高まることが分かった。英・University of OxfordのMaxime Taquet氏らは、COVID-19患者128万例超を対象とした大規模後ろ向き観察研究の結果をLancet Psychiatry2022年8月17日オンライン版)に報告した。

14種の精神・神経疾患リスクを解析

 Taquet氏らは、これまでにCOVID-19発症6カ月後まで神経・精神学的後遺症リスクが上昇することを報告している(Lancet Psychiatry 2021; 8: 416-427)。しかし、リスクの持続期間、小児と成人および新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株による違いがあるか否かは明らかでない。そこで同氏らは、128万例超の2年間の電子診療録データを後ろ向きに解析し、COVID-19発症後の精神・神経疾患リスクの持続期間、小児と成人の違い、変異株による違いを検討した。

 対象は、米国、オーストラリア、英国、スペインなど8カ国・地域の医療機関およびプライマリケアなど62施設の診療録から約8,900万例の匿名化されたデータを集積する国際ネットワークTriNetX Analytics Networkに2020年1月20日~22年4月13日に登録されたCOVID-19患者を抽出。傾向スコアマッチング法で人口統計学的要因、COVID-19およびCOVID-19重症化の危険因子、ワクチン接種状況について2年間にCOVID-19発症が確認された患者128万4,437例(小児18万5,748例、 成人85万6,588例、高齢者24万2,101例、平均年齢42.5歳、女性57.8%)を、他の感染症患者(対照群)と1:1でマッチングした。年齢層別〔小児(18歳未満)、成人(18~64歳)、高齢者(65歳以上)〕、診断日別に、SARS-CoV-2感染後の精神・神経疾患14種〔不安障害、認知障害(ブレインフォグ)、認知症脳炎てんかんギラン・バレー症候群不眠症脳内出血、虚血性脳卒中、気分障害、筋神経接合部または筋肉疾患、神経根/神経叢障害、パーキンソン病、精神病性障害〕のリスクを比較した。

認知障害リスクは36%上昇、継続

 解析の結果、対照群に対しCOVID-19群全体では発症6カ月後に脳炎ギラン・バレー症候群、神経根/神経叢障害、パーキンソン病以外の精神・神経疾患のリスクは他の感染症に対し有意に上昇した。不安障害、気分障害、虚血性脳卒中リスクは発症1~2カ月後(それぞれ58日後、43日後、66日後)にベースライン時と同等に低下し、2年後(417日後、457日後、712日後)までに対照群と同等になった。

 一方、対照群に対するCOVID-19発症6カ月後の認知機能障害リスクは36%〔ハザード比(HR)1.36、95%CI 1.33~1.39〕、認知症リスクは33%(同1.33、1.26~1.41、P<0.0001)、精神病性障害リスク27%(同1.27、1.18~1.37)、てんかんリスクは14%(同1.14、1.09~1.19)、筋神経接合部または筋肉疾患リスクは89%(同1.89、1.76~2.04)といずれも有意に上昇(全てP<0.0001)。認知障害(ブレインフォグ)、認知症、精神病性障害、てんかんのリスクはCOVID-19発症2年後も有意なリスク上昇が継続していた。

小児では認知障害リスクは継続せず

 年齢層別に見ると、小児では、COVID-19発症6カ月後に不安障害、気分障害リスクの上昇は認められなかったが、認知障害(HR 1.20、1.09~1.33)、不眠症(同1.29、1.12~1.48)、脳内出血(同2.16、1.46~3.19)、虚血性脳卒中(同1.89 、1.15~3.09)、神経根/神経叢障害(同1.39、1.08~1.78)、精神病性障害(同2.00 、1.26~3.19)、てんかん(同1.44 、1.25~1.65)のリスクが上昇した。成人では2年後も認知障害リスクが高かったが、小児では認知障害リスクが発症75日後にベースライン時に戻り、491日後には対照群と同等になった。

 高齢者は成人、小児に比べて精神・神経疾患と診断される割合が高く、COVID-19群と対照群を問わず精神・神経疾患と診断された例の死亡率が高く、疾患によっては50%を超えており、特に認知症てんかんで高かった。

 SARS-CoV-2変異株のアルファ株、デルタ株、オミクロン株出現時にCOVID-19を発症した患者は、それぞれ4万7,675例、4万4,835例、3万9,845例。アルファ株出現前後で精神・神経疾患リスクに差は見られなかったが、デルタ株出現前に比べ出現後に不安障害リスクは10%、不眠症リスクは19%、認知障害リスクは13%、てんかんリスクは26%、虚血性脳卒中リスクは27%上昇し、認知症リスクは40%低下した。オミクロン株出現時は死亡リスクが出現直前よりも低下したが、精神・神経疾患リスクに変化は見られなかった。

 以上から、Taquet氏らは「大規模後ろ向き観察研究の結果、他の感染症と比べてCOVID-19発症後に気分障害・不安障害のリスクは一次的に高まるが、2年後までには低下した。一方、精神病性障害、認知障害、認知症てんかんリスクの上昇は2年後も継続していた。小児では成人と比べてCOVID-19発症後の精神・神経疾患リスクは低かったが、てんかんと精神病性障害リスクが高かった。デルタ株はアルファ株と比べて精神・神経疾患リスクが高く、オミクロン株の精神・神経疾患リスクはデルタ株と同等だった」と結論している。

 最終著者でUniversity of OxfordのPaul Harrison氏は「COVID-19発症後6カ月間に精神・神経疾患リスクが高まるというわれわれの以前の知見を追認できた。加えて、幾つかの疾患リスク上昇は少なくとも2年間継続することが示唆された。COVID-19に関連する神経学的疾患が、パンデミック収束後も長期にわたり発症する可能性が高いことを示唆した今回の結果は、患者や保健医療サービスにとって重要な意義がある。COVID-19発症後に精神・神経疾患リスクが上昇する原因の解明と予防、治療のための研究が必要だ」と指摘している。

(大江 円)