新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では静脈血栓塞栓症(VTE)を高頻度に合併し、直接的な死因となることも少なくない。VTEのバイオマーカーとしてはD-ダイマーが最も頻用されているが、COVID-19においては信頼性が低いという指摘もある。米・Rush University Medical CenterのShengyuan Luo氏らは、可溶性ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体(suPAR)に注目し、COVID-19患者約2,000例を対象にVTEのバイオマーカーとしての有用性を検討。suPARはD-ダイマー値にかかわらずVTE発症と有意に関連するとの結果を、J Am Herat Assoc(2022年8月4日オンライン版)に報告した。 (関連記事:「コロナ患者の血栓症診断、FMCが有望か」)。
多国籍観察研究のデータを活用
ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体(uPAR)は、骨髄細胞や血管内皮細胞などに結合するグリコシルホスファチジルイノシトールアンカー型膜蛋白質で、血管の炎症、免疫、凝固の交叉反応における制御因子である。suPARは炎症刺激下でuPARから切断、循環中に放出されたもので、局所血管の炎症を促進すると考えられている。同大学の研究グループは、suPARが慢性腎臓病(CKD)発症予測に有用であることを報告している(関連記事:「CKD早期発見に有用なマーカーsuPAR」)。
Luo氏らは今回、COVID-19関連の有害事象における炎症性バイオマーカーの役割を明らかにする目的で設置された多国籍観察研究ISICのデータベースから、入院後48時間以内に血液検体を採取した18歳以上のCOVID-19患者1,960例(平均年齢58±17歳)を抽出。入院(ベースライン)時のsuPAR値で三分位に分け(0〜5.2ng/mL、5.3〜8.7ng/mL、8.8〜62.7ng/mL)、退院または死亡まで追跡してVTE発症との関連などを検討した。
suPARとD-ダイマーの組み合わせも検討
対象の背景は、血漿D-ダイマーの中央値が1.0mg/L〔四分位範囲(IQR)0.6〜2.6mg/L〕、血漿suPARの中央値が6.7mg/L(同4.5〜10.1)だった。入院後30日以内にVTEを発症したのは163例(8%)で、内訳は深部静脈血栓症(DVT)が65例、肺塞栓症(PE)が88例、両者の合併が10例だった。ベースラインにおけるD-ダイマーとsuPARの中央値は、VTE非発症群に比べVTE発症群でいずれも高かった(1.0mg/L vs. 2.1mg/L、6.5mg/L vs. 9.7mg/L)。年齢、性、黒人、BMI、併存疾患、推算糸球体濾過量(eGFR)を調整した多変量回帰分析の結果、suPARとD-ダイマーには正の相関が見られ、suPAR値が2倍に上昇するごとにD-ダイマー値も7.34倍に上昇した(回帰係数β=7.34、95%CI 1.49〜13.2、P=0.002)。
suPARとVTE発症の関連を見たところ、年齢、性、黒人、BMI、抗凝固療法、併存疾患、腎機能を調整後、suPARの第1三分位群(0〜5.2ng/mL)との比較において第3三分位群(8.8〜62.7ng/mL)とVTE発症に有意な関連が認められた(調整オッズ比2.68、95%CI 1.51〜4.75、P<0.001)。また、両者の関連はD-ダイマーの基準値上限(ULN)をカットオフ値として層別化した場合も不変だった。入院後30日以内のVTE累積発症率は、suPARの第1三分位群が3.5%、第2三分位群が6.0%、第3三分位群が12.6%だった。
さらに、VTE発症率が最も低い集団を特定するため、ランダムフォレストを用いた決定木分析でD-ダイマーとsuPARのカットオフ値の組み合わせを探索したところ、D-ダイマーが1.0mg/L未満かつsuPARが11ng/mL未満が抽出された。この集団のVTE発症率は3.6%で、全対象の41%を占めた。
以上の結果について、Luo氏らは「COVID-19の入院患者において、suPARはD-ダイマーと独立してVTE発症と関連していた。また、VTE発症リスクが低いsuPARとD-ダイマーの組み合わせを特定できた」と結論。「suPARとD-ダイマーを組み合わせることで、COVID-19患者におけるVTE発症リスクの層別化が改善できる可能性がある」と展望している。
(平山茂樹)