嗅覚障害や味覚障害は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に高頻度に見られる症状だが、長期的な臨床経過は十分に解明されていない。シンガポール・National University of SingaporeのBenjamin K. J. Tan氏らは、2021年10月までに発表された観察研究18件のメタ解析を実施。COVID-19関連の嗅覚障害や味覚障害を有する患者の約5%で、これらの症状が長期に持続していたとする結果をBMJ2022; 378: e069503)に発表した。

世界のCOVID-19患者の40~50%が嗅覚や味覚の異常を報告

 嗅覚や味覚の異常はCOVID-19患者に高頻度に見られる症状で、報告されている全COVID-19患者のデータでは、40~50%にこれらの症状が認められている。これまで、嗅覚異常や味覚異常の診断的価値についてはさまざまな検討が行われてきたが、COVID-19罹患後のこれらの症状の臨床経過は十分に解明されていなかった。また、これらの症状から回復するまでの期間に関しても一貫した結果は示されていなかった。

 そこでTan氏らは、COVID-19関連の嗅覚障害および味覚障害からの回復率や、これらの症状が持続する患者の割合、回復に関連する予後因子などについて検討するためシステマチックレビューとメタ解析を実施した。

 PubMed、EMBASE、Scopus、Cochrane Library、medRxivから、2021年10月3日までに発表された18歳以上のCOVID-19関連の嗅覚障害または味覚障害の患者を対象とする観察研究を抽出。基準を満たした観察研究18件・3,699例のデータを用いてメタ解析を実施した。

180日時点の回復率は嗅覚障害95.7%、味覚障害98.0%

 パラメトリック治癒モデル法による解析の結果、COVID-19関連の嗅覚障害または味覚障害の患者において、症状が持続する割合は、嗅覚障害が5.6%(95%CI 2.7~11.0%、I2=70%、τ2=0.756)、味覚障害が4.4%(同1.2~14.6%、I2=67%、τ2=0.684)と推定された。

 患者の報告に基づく嗅覚障害からの回復率は、COVID-19罹患後30日時点で74.1%、60日時点で85.8%、90日時点で90.0%、180日時点で95.7%と推定された(I2=0.0~77.2%、τ2=0.006~0.050)。

 また、患者の報告に基づく味覚障害からの回復率は、COVID-19罹患後30日時点で78.8%、60日時点で87.7%、90日時点で90.3%、180日時点で98.0%と推定された(I2=0.0~72.1%、τ2=0.000~0.015)。

発症初期に重度の嗅覚障害や鼻閉があると難治性に

 この他、女性では嗅覚障害や味覚障害から回復しにくいこと〔嗅覚障害:オッズ比(OR)0.52、95%CI 0.37~0.72、I2=20%、τ2=0.0224、味覚障害:同0.31、0.13~0.72、I2=78%、τ2=0.5121〕、発症初期の嗅覚障害の重症度が高い患者(同0.48、0.31~0.73、I2=10%、τ2<0.001)や鼻閉のある患者(同0.42、0.18~0.97、I2=0%、τ2<0.001)では嗅覚障害から回復しにくいことが示された。

 Tan氏らは「2022年7月までに世界で5億5,000万人以上がCOVID-19と診断され、その約50%が嗅覚または味覚の障害を報告している」と指摘。その上で、「COVID-19に関連する嗅覚障害患者の5.6%、味覚障害患者の4.4%でこれらの症状が持続するということは、COVID-19罹患後も長期間にわたり嗅覚障害が残存する患者は1,500万人以上、味覚障害が残存する患者は1,200万人以上に達するとみられる」と説明し、こうした患者のタイムリーな同定や個別化治療、長期的なフォローアップが必要との見解を示している。

(岬りり子)