米・University of PennsylvaniaのVincent Lo Re Ⅲ氏らは、米食品医薬品局(FDA)の医療製品の安全性監視システムを用いて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)およびインフルエンザによる成人の入院患者9万3,906例を対象とした後ろ向きコホート研究を実施。2018/19年シーズンのインフルエンザによる入院と比べ、COVID-19による入院は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン導入前、導入後の両期間において90日以内の静脈血栓塞栓症(VTE)リスク上昇と有意に関連していたとJAMA(2022; 328: 637-651)に発表した。

COVID-19入院患者8万例超はワクチン導入前後に分けて検討

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染は動脈血栓塞栓症やVTEリスクを高める凝固亢進状態を誘発する可能性が指摘されている。日本では今年(2022年)6月、関連5学会が共同でCOVID-19患者の血栓症対策の指針を発表した(関連記事 COVID-19における血栓症予防、診療指針を5学会が発表)。しかし、COVID-19患者の血栓性合併症発症率は明らかでない。

 今回の後ろ向きコホート研究では、FDAの医療製品の安全監視システムから医療保険会社など6つのデータソースを使用し、COVID-19またはインフルエンザの初期診断コードを有する18歳以上の入院患者を抽出。COVID-19群は、SARS-CoV-2ワクチン導入前(2020年4~11月)の4万1,443例と導入後(2020年12月~21年5月)の4万4,194例。インフルエンザ群は、2018年10月~19年4月の8,269例で、COVID-19に重複感染していないことを確認した。

 主要評価項目は、90日以内の動脈血栓塞栓症急性心筋梗塞または虚血性脳卒中)およびVTE(深部静脈血栓症または肺塞栓症)とした。追跡は入院日に開始し、インフルエンザ群は2019年7月、COVID-19群は2021年8月までとした。

 両群の背景の違いを調整するため傾向スコア分析を行い、Cox比例ハザードモデルでインフルエンザ群に対するCOVID-19群の血栓症イベントの調整ハザード比(aHR)を推定した。

動脈血栓塞栓症リスクは有意差なし

 COVID-19群8万5,637例の平均年齢±標準偏差は72±13.0歳、男性が50.5%、白人が約6割を占めた。インフルエンザ群8,269例は、それぞれ72±13.3歳、45.0%、74.3%。アジア系はともに約2%だった。

 解析の結果、90日以内の動脈血栓塞栓症の絶対リスクは、インフルエンザ群の14.4%(95%CI 13.6~15.2%)に対し、COVID-19群ではワクチン導入前が15.8%(95%CI 15.5~16.2%、リスク差1.4%、95%CI 1.0~2.3%)、導入後が16.3%(同16.0~16.6%、1.9%、1.1~2.7%)だった。

 インフルエンザ群に対するCOVID-19群の動脈血栓塞栓症リスクは、ワクチン導入前(aHR 1.04、95%CI 0.97~1.11)、導入後(同1.07、1.00~1.14)ともに有意な上昇は見られなかった。一方、動脈血栓塞栓症の診断後30日間の全死亡率は、インフルエンザ群に対し、COVID-19群ではワクチン導入前(aHR 3.45、95%CI 2.68~4.45)、導入後(同3.45、2.69~4.44)の両期間とも3倍以上に上昇した。

COVID-19患者のVTEリスク60~89%上昇

 90日以内のVTEの絶対リスクは、インフルエンザ群の5.3%(95%CI 4.9~5.8%)に対しCOVID-19群ではワクチン導入前が9.5%(95%CI 9.2~9.7%、リスク差4.1%、95%CI 3.6%~4.7%)、導入後が10.9%(同10.6~11.1%、5.5%、5.0%~6.1%)だった。

 インフルエンザ群に対し、COVID-19群のVTEリスクはワクチン導入前(aHR 1.60、95%CI 1.43~1.79)、導入後(同1.89、1.68~2.12)とも有意に上昇した。VTE診断後30日間の全死亡率は、インフルエンザ群に対しCOVID-19患者ではワクチン導入前(aHR 2.96、95%CI 1.84~4.76)、導入後(同3.80、2.41~6.00)の両期間で約3倍に上昇した。

30日死亡率に関してはさらに研究を

 以上の結果から、 Lo Re Ⅲ氏らは「米国の公衆衛生監視システムのデータを解析した結果、2018/19年のインフルエンザによる入院に比べて、ワクチン導入前および導入後のCOVID-19による入院は、90日以内のVTEリスク上昇と有意に関連していた。ただし90日以内の動脈血栓塞栓症リスクに有意差はなかった」と結論している。

 COVID-19患者でVTEリスクがより高かった理由について、同氏は「血管内皮細胞へのSARS-CoV-2感染は、抗リン脂質抗体量の増加や血小板活性の増強など、炎症および凝固異常を誘発する。これらの異常は、インフルエンザよりもCOVID-19で顕著となる可能性がある」と指摘。血栓症イベント後30日の死亡リスクの上昇については、「COVID-19患者は、インフルエンザ患者と比べて臓器不全、多臓器損傷および死亡に寄与する血栓症の頻度が高かった可能性がある。しかし、血栓症の重症度に関するデータは今回入手できなかった。この現象のメカニズムを解明するにはさらなる研究が必要」と付言している。

坂田真子