家族性高コレステロール血症(FH)ヘテロ接合体患者は、早発性(男性55歳未満、女性65歳未満)の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の発症リスクが高く、冠動脈疾患や脳血管・下肢血管疾患を合併し、複数の血管に広範な動脈硬化性疾患を伴うことが知られている。しかし、動脈硬化性疾患を合併するFHヘテロ接合体の臨床像などは十分に解明されていない。国立循環器病研究センター心臓血管内科の舟橋紗耶華氏らの研究グループは、動脈硬化の危険因子の1つ血中リポ蛋白(a)〔Lp(a)〕濃度の上昇がFHヘテロ接合体患者における動脈硬化性疾患の併発を予測し、Lp(a)濃度が50mg/dL以上の症例は、全身血管のスクリーニングが必要な高リスク群であるとの研究結果をJ Am Heart Assoc(2022 ; 11: e025232)に発表した。
FHヘテロ接合体370例を後ろ向きに解析
研究グループはこれまで、動脈硬化性疾患を合併するFHヘテロ接合体例では動脈硬化を引き起こす可能性が高いLp(a)が高値であることを報告している。Lp(a)はアテローム血栓形成、酸化ストレスや炎症反応などを促進し、心筋梗塞、脳梗塞、下肢血管疾患などのASCVD発症に寄与するとの報告もある。研究グループは今回、FHヘテロ接合体の高Lp(a)血症は動脈硬化性疾患の合併を予測するバイオマーカーであるとの仮説を立て、後ろ向き研究で検証した。
対象は国立循環器病研究センターを受診または入院したFHヘテロ接合体患者のうち、全身動脈を評価した370例。動脈硬化性疾患は冠動脈疾患、頸動脈狭窄症、下肢動脈疾患のいずれか2つ以上を有するものと定義した。全体の21.9%がなんらかのASCVDを有し、動脈硬化性疾患の割合は5.7%だった(図)。
図. ASCVDおよび動脈硬化性疾患の保有率
PolyVD:動脈硬化性疾患、ATS:アテローム性動脈硬化症
(国立循環器病研究センタープレスリリースより)
動脈硬化性疾患を有するFHヘテロ接合体は複数の動脈硬化性危険因子を持ち、アキレス腱肥厚および皮膚黄色腫、角膜輪の頻度が高く、高頻度に高Lp(a)血症を呈していた。多変量解析の結果、FHヘテロ接合体における動脈硬化性疾患合併の独立した予測因子として、Lp(a)濃度50mg/dL以上〔オッズ比(OR)5.66、95%CI 1.68~19.0、P=0.005〕、年齢(同1.07、1.02~1.13、P=0.012)、早発性の冠動脈疾患家族歴(同3.21、1.00~10.3、P=0.049)が抽出された。
特に58歳以上、早発性の冠動脈疾患家族歴、Lp(a)濃度50mg/dL以上の3つの条件を満たすFHヘテロ接合体例では動脈硬化性疾患の合併率が33.3%と高かった(OR 10.3、95%CI 3.12~33.4、P<0.001)。
以上を踏まえ、研究グループは「血中Lp(a)濃度の上昇は、FHヘテロ接合体における動脈硬化性疾患合併の独立した予測因子であることが分かった。特にLp(a)濃度50mg/dL以上の症例は、全身血管のスクリーニングが必要な高リスク群であることが示唆された」と結論。「近年、Lp(a)を標的とした薬剤が開発され、Lp(a)低下効果が報告されている。今後は、動脈硬化性疾患を有するFHヘテロ接合体に対する最適な治療アプローチの確立を目指し研究を進めていく予定」と付言している。
(小野寺尊允)