摂食障害は若年女性に好発し、中でも神経性やせ症は若年女性の約1%に認められる。名古屋大学病院ゲノム医療センター病院講師の久島周氏らの研究グループは、日本人女性摂食障害患者と健常者を対象にゲノム解析を実施。摂食障害患者の10%で神経発達症リスクに関連するゲノムコピー数変異(CNV)が見られ、摂食障害との有意な関連が示された。CNVの多くはシナプス関連遺伝子に見られたことから、シナプス機能障害が摂食障害の病態に深く関与することが示唆されたとPsychiatry Clin Neurosci(2022年5月25日オンライン版)に発表した(関連記事「自閉症と統合失調症の共通点を発見!」「ゲノム解析で精神疾患の共通性を同定」)。
摂食障害と精神障害の遺伝的要因にオーバーラップ
神経性やせ症では、体重増加に対する強い恐怖、自分の体に対するイメージのゆがみなどから、食事量の制限による著しい低体重を示し、死亡率も10年間で約5%と高いことが報告されている。摂食障害の詳細な病態は不明で、有効性の高い薬物治療はない。
これまでの疫学研究から、摂食障害の発症には遺伝的要因が強く関与し、他の精神疾患の遺伝的要因とも一部オーバーラップする可能性が示唆されている。またゲノム変異のサブタイプであるCNVは自閉症スペクトラム障害、統合失調症をはじめ精神疾患の発症への関与が指摘され、摂食障害を対象とした既報のゲノム研究では、患者の一部で精神疾患のリスクに関連するCNVが検出されている。しかし、摂食障害とCNVの関連について明確な結論は得られていない。
研究グループは、日本人女性の摂食障害患者70例(患者群、平均年齢29.2±9.4歳)と健康人1,036例(対照群、同37.9±13.6歳)を対象にゲノム解析を実施、摂食障害とCNVの関連を検討した。患者群は神経性やせ症、回避・制限性食物摂取症のいずれかの診断を受け、BMIが15以下の重症例とした。高解像度アレイCGHを用い、神経発達症の発症に関与することが報告されているCNVに着目して解析した。
シナプスのシグナル伝達関連遺伝子領域にCNVが集積
解析の結果、神経発達症のリスクCNV保有率は対照群の2.3%(24例)に対し、患者群では10%(7例)と高く、摂食障害リスクとの有意な関連が認められた〔オッズ比(OR)4.69、P<0.0023〕。
患者から検出された変異には、45,X(ターナー症候群)をはじめ、KATNAL2、DIP2A、PTPRT、RBFOX1、CNTN4、MACROD2、FAM92Bの欠失が含まれた。これらのうちPTPRT、DIP2A、RBFOX1、CNTN4は神経細胞のシナプスで機能することが報告されている。そこで、摂食障害へのシナプスの関与を検討するため遺伝子セット解析を行ったところ、患者群のCNVはシナプスのシグナル伝達に関連している遺伝子領域に有意に多く集積しており(OR 2.55、P=0.0254)、シナプスの機能障害が摂食障害の病態に関与する可能性が示唆された(図)。
図. CNVおよびシナプス機能障害と摂食障害の関連(イメージ)
(名古屋大学プレスリリースより)
早期診断法や治療薬の開発に期待
以上を踏まえ、研究チームは「摂食障害の発症には、神経発達症の発症に関与する既知のリスクCNVが関与すること、摂食障害の病態にはシナプスの機能障害が関与することが明らかになった」と結論。「今回は症例が70例と少なかったことから、大規模なゲノム解析で再現性を確認する必要がある。その上で、同定されたCNVに基づく患者由来の人工多能性幹(iPS)細胞やモデル動物を用いた解析により、シナプス機能障害の観点から摂食障害の病態理解が進めば、早期診断法や新規治療薬の開発が期待される」と付言している。
(小野寺尊允)