欧米を中心にサル痘の感染が急拡大している中、サル痘・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)・HIV感染症の初の三重感染をしたイタリア人男性(36歳)の症例が報告された。イタリア・University of CataniaのSanti Nolasco氏らは患者の感染経緯と臨床症状、転帰についてJ Infect(2022年8月19日オンライン版)に発表した。COVID-19とサル痘には重複する症状があるため、サル痘流行地域への旅行歴のある患者に対しては既往歴と性的習慣についての問診を行う必要性があることを指摘。サル痘の陽性判明後は性感染症(STI)スクリーニングを行うことを推奨した。
SARS-CoV-2陽性判明後、発疹が発現
三重感染をした男性は今年(2022年)6月16~20日にスペインに滞在。その間、男性との性交渉を行った。6月29日に発熱(39.0度)、咽喉痛、疲労感、頭痛、右鼠径リンパ節腫脹が発現。7月2日にSARS-CoV-2陽性が判明した。同日午後に左腕に発疹が出始めると、翌日には体幹、下肢、顔面および臀部にも痛みを伴う発疹が発現した。7月5日にはさらに病状が悪化したため、感染症病棟に入院した。
同患者は2019年に梅毒の治療経験があり、2021年9月にはHIV検査で陰性が証明されていた。また同年12月以前にSARS-CoV-2ワクチンを2回接種しており、2022年1月には既にCOVID-19の感染経験を有していたという。
入院時、同患者は発熱(37.5度)、咽喉痛、頭痛が続いており、右手掌および肛門周辺に水疱や膿疱、臍帯斑が点在していた。また、中等度の肝脾腫と右鼠径リンパ腫脹が認められた。臨床検査ではC反応性蛋白質(69mg/L、正常値0.0~5.0mg/L)、フィブリノゲン(713mg/dL、正常値170~400mg/dL)、プロトロンビン時間(1.21、正常値0.8~1.2)の値が上昇していた。さらに胸部X線検査では、右肺の透過性が低下していた。
皮膚病変改善後もサル痘は陽性継続
入院2日目(7月6日)、臨床症状からサル痘の強い疑いがあったため、患者の病変部および鼻咽頭のスワブを採取。サル痘オルソポックスウイルスの検出およびSARS-CoV-2シーケンスの解析を行ったところ、両疾患で陽性であることが確認された。また、血清学的検査でHIV-1陽性であることも示された。
入院3日目には大部分の皮膚病変が痂皮に変化し始めた。COVID-19患者に対する中和抗体薬ソトロビマブ500mgの静脈内注射を実施。入院5日目には、ほとんど全ての全身症状が解消され、臨床検査値も正常化した。
入院6日目、サル痘とCOVID-19の陽性を示していたものの、症状が改善したため退院し、自宅隔離に移行した。7月19日に再検査を行ったがサル痘は陽性で、HIV治療のためドルテグラビル、アバカビル、ラミブジンの3剤併用療法が開始された。サル痘の病変部のかさぶたはほぼ完治し、小さな傷跡が残った。
サル痘疑い例は性感染症のスクリーニングも
報告例は初期にサル痘とCOVID-19が重複する症状(発熱、リンパ節腫脹、頭痛、咽喉痛、疲労)を発現したことから、正確な診断には既往歴と性的習慣についての問診が必要であることが示された。また、口腔咽頭スワブでサル痘は20日後も陽性であったことから、臨床的寛解後も数日は感染の可能性があることが示唆された。
Santi氏らは「今回のケースにおいて、サル痘ウイルスとHIVは性交渉が主な感染経路である可能性が高い。サル痘流行地域へ旅行した患者は、サル痘診断後にSTIスクリーニングを行うことを推奨する」と提言。
さらに同氏は「これはサル痘・COVID-19・HIVの重複感染をした唯一のケースであるため、この組み合わせが必ずしも患者の状態を悪化させるとは言い切れない。しかし、サル痘・COVID-19の感染拡大の現状に鑑み、先述の高リスク患者に対しては適切な診断を行う必要があることを周知していくべきだ」と付言した。
(植松玲奈)