日本の維持透析患者は30万例を超え、新規導入例は年間4万例と推計されている。透析導入の主な原因は慢性腎臓病などの腎機能低下だが、侵襲性が高い手術により腎臓に負担がかかり、予定外に透析を必要とするケースも存在する。東京医科歯科大学大学院腎臓内科学分野の中野雄太氏らの共同研究グループは、診断群分類包括評価(DPC)データベースを解析、周術期の透析導入および開始時期と予後との関連を検討。周術期に透析を開始した患者は日常生活動作(ADL)低下、院内死亡のリスクが高く、特に術後に開始した群で高かったとInt J Surg(2022; 104: 106816)に発表した。
大手術を受けた2万例超を解析
術前の併存症や手術に伴う腎機能低下により、周術期に透析を開始する症例少なくない。しかし、侵襲性が高い大手術の周術期の透析開始が、治療成績や予後に及ぼす影響は明らかでなかった。
研究グループは、DPCデータベースから8カテゴリーの大手術※を受けた者約100万例を抽出、周術期の透析導入および開始時期と予後との関連を検討する全国規模の実態調査を実施した。
対象は、2018~19年に入院中に大手術を受けた約100万例のうち、傾向スコアマッチング法で年齢、性、BMI、入院年を調整し選出した①透析開始群、②維持透析群(入院前から継続的に透析実施)、③非透析群-各7,619例。ロジスティック回帰分析によりADL低下(Barthel Index の20%以上低下と定義)、院内死亡のオッズ比を算出した。
透析開始群の死亡リスクに肝胆膵手術、上部消化管切除術が関連
検討の結果、ADLが低下した患者の割合は非透析群で最も低く(3.48%、95%CI 3.07~3.89%)、透析開始群(7.67%、同7.07~8.26%)と維持透析群(8.56%、同7.93~9.19%)は同等だった。院内死亡率は、非透析群(1.12%、同0.88~1.35%)、維持透析群(5.97%、同5.44~6.50%)よりも透析開始群(8.54%、同7.92~9.17%)で高かった。
その他の因子では、ADL低下リスク上昇には高齢、併存症の多さ、緊急入院、冠動脈バイパス術、整形外科手術が関連し、死亡リスク上昇には高齢、低ADL、併存症の多さ、緊急入院、冠動脈バイパス術、下部消化管切除術、上部消化管切除術が関連していた。
手術カテゴリー別に見ると、透析開始群では肝胆膵手術および上部消化管切除術(胃切除術/食道切除術)と院内死亡リスクに有意な関連が認められた(図1)。
図1. 手術カテゴリー別に見た院内死亡リスク(透析開始群)
術後の透析開始で死亡リスクがより高い
続いて、透析開始群を開始時期で術前群(術前日以前)と術後群(術日以降)に分けて解析した。その結果、冠動脈バイパス術と下部消化管切除術を除く6カテゴリーにおいて、術後の透析開始と院内死亡リスクとの関連が示された(図2)。
図2. 透析開始時期別に見た院内死亡リスク
(図1、2とも東京医科歯科大学プレスリリースより)
以上を踏まえ、研究グループは「全国規模の入院データの解析から、周術期における透析開始のリスクおよび予後への影響が明らかになった。特に術後の開始例では院内死亡リスクが高かったことから、透析により全身状態を安定させた上で施行すれば治療成績が向上する可能性がある」と結論している。
※①冠動脈バイパス術、②肺切除術、③整形外科手術(椎弓切除術/椎弓形成術/脊椎固定術、膝または股関節の関節形成術/人工骨頭挿入術/人工骨頭置換術、大腿・下腿の観血的骨折手術)、④肝胆膵手術(肝切除術、胆嚢切除術、膵臓切除術)、⑤下部消化管切除術(小腸切除術、結腸切除術、直腸切除術)、⑥上部消化管切除術(胃切除術/食道切除術)、⑦腎部分切除術(腎機能の喪失が大きい全摘を除く)、尿管切除術、膀胱切除術、⑧乳房切除術、子宮摘出術
(小野寺尊允)