英・University of OxfordのDavid J. Beard氏らは、非急性期の前十字靭帯(ACL)損傷患者316例を対象に、ACL再建術とリハビリテーションの有効性を比較する多施設共同ランダム化比較試験(RCT)ACL SNNAPを実施した。その結果、ACL再建術はリハビリテーションよりも有効で、費用効果も高かったとLancet2022; 400: 605-615)に報告した。

対象は臨床現場で多い非急性期のACL損傷患者

 ACL損傷の管理に関するこれまでの研究では、ACL再建術とリハビリテーションのいずれが有効であるかについて一貫した結果は得られていない。また、ACL損傷患者は非急性期に受診する場合も多いが、先行研究のほとんどが急性期のACL患者を対象としたものである。

 そこでBeard氏らは、非急性期のACL損傷患者にACL再建術とリハビリテーションのいずれが適しているか検討するため、英国National Health Serviceの医療機関29施設でRCTを実施した。

 対象は、2017年2月1日〜20年4月12日に膝関節不安定性を訴え医療機関を受診したACL損傷患者316例〔平均年齢±標準偏差(SD)32.9±9.8歳〕。緊急手術を要する半月板損傷および内側側副靭帯損傷を有する患者は除外した。316例をブロックランダム化法により、手術群(156例、49%)またはリハビリテーション群(160例、51%)にランダムに割り付けた。

 手術群では、一般的なACL再建術として膝蓋腱移植片を用いたものとハムストリング移植片を用いたもののいずれかを実施した。リハビリテーション群では、ACLリハビリテーションのプロトコルに従い、少なくとも3カ月に6回のリハビリテーションセッションを行った。

 主要評価項目は、ベースラインから18カ月後の膝関節損傷・変形性関節症転帰スコア4項目(KOOS4)の変化とした。主にintention-to-treat(ITT)解析を行い、KOOS4には線形回帰モデルを用いた。

手術費用は高いが転帰良好で、費用効果は高い

 解析の結果、ベースライン時のKOOS4(平均±SD)は、手術群で45.7±19.6ポイント、リハビリテーション群で43.3±18.1ポイントだった。18カ月後のKOOS4(平均±SD)は、手術群で73.0±18.3ポイント、リハビリテーション群で64.6±21.6ポイントと、手術群で有意に高かった(調整後平均差7.9ポイント、95%CI 2.5〜13.2ポイント、P=0.0053)。

 18カ月後にKOOS4が8ポイント以上上昇した患者は、手術群で100例(78%)、リハビリテーション群で87例(73%)と同等だった。Per protocol解析でもITT解析と同様、手術群で有意に良好な結果であった。

 費用効果受容曲線でACL再建術がリハビリテーションに比べ費用効果が高い確率を異なる閾値で捉えたところ、ACL再建術は質調整生存年(QALY)当たり3万ポンドの点で費用効果が最も高い(72%の確率)ことが示された。これは、ACL再建術の医療費がリハビリテーションと比較して高いにもかかわらず(ACL再建術3,186ポンド/人、リハビリテーション2,169ポンド/人、差1,017ポンド、95%CI 557〜1,476ポンド、P<0.001)、転帰が良好であったことによるものである(それぞれ1.03QALYs/人、0.98QALYs/人、P=0.17)。

 リハビリテーション群では、160例中65例(41%)が18カ月以内にプロトコルに従ってACL再建術を受けた。手術群では、156例中43例(28%)がACL再建術を受けなかった。介入に関連した合併症の割合に群間差は認められなかった。

 以上から、Beard氏らは「膝関節不安定性を有する非急性期ACL損傷患者に対するACL再建術は、リハビリテーションと比較して臨床的有効性に優れており、費用効果も高かった。非急性期ACL損傷患者へのACL再建術は、リハビリテーションよりも優れた結果をもたらす可能性が高い」と結論。「手術を望まない患者には安心のため、手術以外の治療でも改善の見込みがあり、将来的に手術の選択肢も残されていると伝えることが重要だ」と付言している。

(今手麻衣)