双極性障害に対する治療法として、抗精神病薬または気分安定薬を投与する単剤療法に比べ、両薬による増強療法の有効性は明らかである。しかし、増強療法の効果発現速度および長期的なリスク・ベネフィットついては定かでない。京都大学大学院社会健康医学専攻健康増進・行動学分野准教授の田近亜蘭氏ら多施設共同研究グループは、双極性障害に対する増強療法の効果に関するシステマチックレビューとメタ解析を実施。急性期躁病時は増強療法が開始1~6週で効果発現を示したことから、増強療法の早期導入の検討を要すると、Int J Neuropsychopharmacol(2022 年8月6日オンライン版)に報告した。

臨床現場で求められる迅速なコントロール

 双極性障害の治療は、第一選択薬が過去20年間で気分安定薬から第二世代抗精神病薬へと大きく変わった。 躁状態にある双極性障害患者においては、迅速かつ有効な症状コントロールが求められる。その際の第一選択薬として、抗精神病薬または気分安定薬による単剤療法がガイドラインで推奨されているが、即効性を得る上では抗精神病薬と気分安定薬による増強療法が求められる。

 日本のガイドラインでは、双極性障害の軽度の躁状態例にはリチウム単剤を、中等度~重度例にはリチウムと抗精神病薬(オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピン、リスペリドン)による増強療法を推奨している。臨床現場では迅速な症状コントロールが求められることが多く、国内では気分安定薬の2剤併用療法や気分安定薬と抗精神病薬による増強療法が広く検討されている。

 これまで双極性障害患者における躁状態への薬物療法として、気分安定薬単独に比べ気分安定薬への抗精神病薬の追加が有効であることが、システマチックレビューとメタ解析で示されている。なお、メタ解析では躁状態に対する急性期治療の効果判定を3週時に行うのが一般的だが、実臨床ではより早い時期での効果発現が求められている。

 今回、田近氏らは、双極性障害の躁状態の急性期に対する増強療法および単剤療法の有効性に関するシステマチックレビューとメタ解析を行った。同氏らによると、同じカテゴリーの薬剤を併用する「併用療法」と、異なるカテゴリーの薬剤を併用する「増強療法」が混在した研究が行われているという。今回の研究では検討対象を増強療法に統一している。

増強療法群で3週後、6週後の奏効率が有意に高い

 システマチックレビューの対象は、Cochrane CENTRAL、MEDLINE(各2021年1月7日まで)、EMBASE(2021年1月11日まで)に掲載された双極性障害の躁状態急性期に対する気分安定薬(炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン)と抗精神病薬(amisulpride、アリピプラゾール、アセナピン、クロルプロマジン、クロザピン、flupentixol、フルフェナジン、ハロペリドール、レボメプロマジン、オランザピン、パリペリドン、ペラジン、クエチアピン、リスペリドン、スルピリド、ziprasidone、ゾテピン、zuclopenthixol)による増強療法と単剤療法を比較した全てのランダム化比較試験(RCT)の論文で、主要評価項目は奏効率および忍容性とした。RCTの対象には双極性障害および統合失調感情障害の混合型が含まれていた。

 増強療法と気分安定薬の単剤療法を比較したRCTが17件(比較1)、増強療法と抗精神病薬の単剤療法を比較したRCTが8件(比較2)、それぞれ抽出された。

 比較1では、単剤療法群に対する増強療法群における開始3週後の奏効率のオッズ比(OR)は1.45(95%CI 1.17~1.80)、6週後は1.59(同1.28~1.99)と、増強療法群でいずれもが有意に高かった。標準化平均差(SMD)は-0.25(95%CI-0.38~-0.12)であり、1週目に有意な改善が観察された。

 比較2についても、単剤療法群に対する増強療法群における開始3週後の奏効率のORは1.73(95%CI 1.25~2.40)、6週後は1.74(同1.11~2.73)と、増強療法群での優位性が示された。同様に有意な改善が1週目に認められ、SMDは-0.23(95%CI -0.39~-0.07)だった。 忍容性については、開始3週後、6週後とも両群で有意差はなかった。

 以上の結果を踏まえ、田近氏らは「双極性障害患者における躁状態の急性期治療には副作用への注意を要するものの、投与開始1~6週でに効果が現れることから、早期に増強療法を検討すべきである」と結論している。

(田上玲子)