米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、40歳以上の成人における心血管疾患(CVD)の初発予防を目的としたスタチンの投与に関する2016年の勧告を改訂し、新たに行ったシステマチックレビューの結果とともにJAMA(2022; 328: 746-753)に発表した。改訂版は2016年版をおおむね踏襲した内容となっており、76歳以上については引き続き「スタチン療法の便益と害のバランスを評価するにはエビデンスが不十分(Grade:I statement)」と結論している。
平均52~66歳の試験で全死亡・CVDリスク低下を確認
米国においてCVD死は成人の死亡の4例に1例を超える割合を占め、CVD死の43%を占める冠動脈性心疾患(CHD)は単独で死因の第1位となっている。
USPSTFは2016年版勧告の改訂に際し、CVD初発予防を目的とするスタチン投与について検討した試験22件のシステマチックレビューを行った。解析対象の平均追跡期間は3.3年で、平均年齢は52~66歳だった。スタチン療法の強度は半数以上の試験(12件)で中等度だった〔70~82歳(平均年齢75歳)を対象としたProspective Study of Pravastatin in the Elderly at Risk(PROSPER)試験を除く〕。
プール解析ではスタチン療法による全死亡およびCVDリスク低下が認められ、プラセボに対する相対リスク(RR)は全死亡(18件・8万5,816例)で0.92〔95%CI 0.87~0.98、絶対リスク差(ARD)-0.35%〕、脳卒中(15件・7万6,610例)で0.78(同0.68~0.90、-0.39%)、心筋梗塞(12件・7万6,498例)で0.67(同0.60~0.75、-0.89%)、複合心血管イベント(15件・7万4,390例)で0.72(同0.64~0.81、-1.28%)だった。
スタチン療法の相対的便益は年齢、性、人種/民族、特定の危険因子(高血圧、糖尿病など)の有無で層別化したサブグループにおいても一貫して認められた。
一方、70歳以上が対象(平均年齢75歳)のPROSPER試験では同様のリスク低下が認められず、プラセボに対するRRは全死亡で1.07(95%CI 0.86~1.35)、脳卒中で1.03(同0.73~1.45)、複合心血管イベントで0.94(同0.78~1.14)だった。
10年心血管リスク10%以上の40~75歳で中等度の利益
これらの結果を踏まえ、USPSTFは心血管イベントおよび全死亡の予防を目的とするスタチン投与に関して、40~75歳でCVD既往歴がなく、1つ以上のCVD危険因子(脂質異常症、糖尿病、高血圧、喫煙)を有し、10年間の心血管イベント発生リスクが10%以上の成人では少なくとも中等度の便益があり、同様のリスクが7.5%以上10%未満の成人では少なくとも小さな便益があると、いずれも中等度の確実性をもって結論している。
改訂版の勧告は、以下の通り2016年版を踏襲した内容になっている。
・1つ以上のCVD危険因子を有し10年心血管リスクが10%以上の40~75歳に対し、スタチンの使用開始を推奨する(Grade:B)
・1つ以上のCVD危険因子を有し10年心血管リスクが7.5%以上10%未満の40~75歳に対し、(患者の価値観や意向を考慮した)選択的なスタチンの使用を推奨する(Grade:C)。この集団におけるスタチン療法の便益は、10年心血管リスクが10%以上の集団と比べて小さい可能性がある。
・76歳以上に対するスタチン使用の便益と害のバランスを評価するにはエビデンスが不十分である(Grade:I statement)。
有害事象などの項目も2016年版と同等
有害事象や用量(強度)などの項目についても、改訂版は2016年版と同等の内容となっている。
スタチン療法の害を報告した臨床試験19件(7万5,005例)と観察研究3件(41万7,523例)のプール解析で、有害事象による投与中止のリスク上昇は認められなかった。また臨床試験9件(4万6,388例)のプール解析では、プラセボ群と比べてスタチン群で筋痛症のリスク上昇は認められず、臨床試験6件(5万9,083例)のプール解析ではプラセボ群とスタチン群で糖尿病の新規発症リスクに差がなかった(RR 1.04、95%CI 0.92~1.19、研究間の異質性のI2=52%、ARD 0.00%、95%CI -0.00%~0.01%)。
スタチン療法の強度は、解析対象とした試験の半数以上(12件)で中等度だった。USPSTFは「利用可能なエビデンスに基づき、CVD初発予防を目的とする中等度の強度のスタチン療法は妥当と考えられる」としている。
(太田敦子)