世界疾病負担研究(GBD)2019のがんリスク因子研究グループ(Cancer Risk Factors Collaborators)は、がん対策に関する情報提供として行動、代謝、環境および職業上の危険因子による世界的ながんの負担を分析。2019年の世界のがん死亡数と障害調整生存年数(DALY)の半数近くは危険因子に起因し、その最大の要因はたばこ(喫煙、噛みたばこ、受動喫煙を含む)で、10年間不動であることを、The Lancet(2022年8月20日オンライン版)に発表した。

2019年の危険因子に起因するがん死亡数、DALYsともに全体の4割強

 GBDは2007年から更新を重ね、GBD2019では1990〜2019年の204の国や地域における369の死亡や傷害の原因、87の危険因子について、死亡率、発生率、有病率、損失生存年数(YLL)、障害生存年数(YLD)およびDALY(YLL+YLD)が推定されている。

 同研究グループは、このGBD2019の比較リスク評価フレームワークを使用して、2019年における行動、代謝、環境と職業上の危険因子に起因するがんの負担を推定するため、各危険因子に起因するがん死亡数とDALY、これらの2010〜19年における変化率を検討した。このフレームワークには82のがんリスクと転帰の組み合わせが含まれ、世界がん研究基金の基準に従い関連性が高い危険因子が特定されている。

 2019年における全ての危険因子に起因するがん死亡数は4億4,500万人〔95%不確実性区間(UI)4.01~4.94億人〕で、全てのがん死亡数の44.4%(同41.3〜48.4%)を占めた。

 2019年における全ての危険因子に起因するがんのDALYは、1億500万(95%UI 9,500万〜1億1,600万)で、全てのがんのDALYの42.0%(同39.1〜45.6%)を占めた。

行動リスクががんの最大の負担

 がんDALYの年齢標準化率から、世界のがん負担に寄与する主要な危険因子は2019年の上位9因子が2010年から変化がなく、上位3因子はたばこ(喫煙、噛みたばこ、受動喫煙を含む)、飲酒、高BMIの順で、続いて危険な性行為、高空腹時血糖値、空気中の粒子状物質への曝露、アスベストへの職業上の曝露、食事のリスク(無精製穀類、牛乳、果物摂取の低さ)と続いた。

 危険因子に起因するがんの負担は、地域および社会人口統計学的指標(socio-demographic index;SDI)によって異なり、SDIが低い地域での主要な危険因子はたばこ、危険な性行為、飲酒であったが、SDIが高い地域では世界の危険因子の上位3因子を反映し、たばこ、飲酒、高BMIであった。

 2019年の世界のがんの負担に寄与する主要な危険因子のほとんどは、たばこ、飲酒、危険な性行為、食事のリスクなど行動上のリスクであり、中でも喫煙はがんの主要な危険因子であり続けている。その一方、がんの負担に大きく寄与する危険因子は世界の地域により異なっていたことから、地域固有の主要ながんの危険因子をターゲットにすることは、SDGターゲット3.4が示す「2030年までに非感染性疾患による若年死亡率を3分の1に減らす」ための各国の取り組みを推進させることに役立つ可能性があるという。

この10年で最も増加したリスクは代謝リスク

 2010年から2019年にかけて、推定された全ての危険因子に起因する世界のがん死亡数は20.4%(95%UI 12.6〜28.4%)増加し、DALYは16.8%(同8.8〜25.0%)増加した。

 2010年から2019年にかけてがん死亡において最大の増加率を示した危険因子は代謝リスクで、代謝リスク(主に高BMIや高空腹時血糖値)に起因するがん死亡数が34.7%(95%UI 27.9〜42.8%)、DALYは33.3%(同25.8〜42.0%)増加した。

がんを減らすにはリスク低減と包括的な戦略が必要

 研究グループは「本分析結果は、世界的にかなりの割合のがんの負担が既知のがんの危険因子への曝露回避を目的とした介入によって予防できる可能性がある一方、現在推定されている危険因子の制御だけではがん負担の大部分を回避できない可能性があることも強調している。したがって、がんのリスク低減の取り組みは、早期診断と有効な治療をサポートするための取り組みを含む包括的ながん制御戦略と組み合わせる必要がある」と強調している。

宇佐美陽子