妊娠糖尿病は世界で統一された診断基準がなく、2010年に国際糖尿病・妊娠学会(IADPSG)がコンセンサスプロセスを通じて策定し、血糖の診断基準値を引き下げた新たな診断基準を推奨した。しかし、専門組織の間でも新血糖基準については評価が分かれている。ニュージーランド・University of AucklandのCaroline A. Crowther氏らは、妊娠糖尿病の診断にIADPSGの低い血糖基準またはニュージーランドで推奨されている高い血糖基準を使用した場合の、妊娠合併症の1つである在胎不当過大(large for gestational age;LGA)児の出生リスクを比較。その結果、LGA児の出生リスクは低い血糖基準を用いても低下しなかったと、N Engl J Med(2022; 387: 587-598)に発表した。
低い血糖基準で妊娠糖尿病の診断頻度は2.5倍以上に
IADPSGが推奨する妊娠糖尿病の診断基準は空腹時血糖92mg/dL以上、1時間値180mg/dL以上、2時間値153mg/dL以上のいずれかを満たすもので、これを低い血糖基準(低基準)とした(日本でもこの基準値が採用されている)。一方、ニュージーランドで推奨されている血糖基準は、空腹時血糖値99mg/dl以上、または2時間値162mg/dL以上で、これを高い血糖基準(高基準)と定義した。
同氏らは、糖尿病および妊娠糖尿病の既往歴がある女性を除く妊娠24〜32週の女性4,061人を対象にランダム化比較試験を実施。低基準群と高基準群に1:1でランダムに割り付け、主要評価項目としてFenton成長曲線に基づき出生時体重が90パーセンタイル以上と定義されるLGA児の出生頻度、副次評価項目として母体および新生児の退院までの健康転帰を検討した。
妊娠糖尿病の診断頻度は、低基準群が2,022人中310人(15.3%)、高基準群が2,039人中124人(6.1%)で、低基準を使用すると、妊娠糖尿病と診断され治療を受ける女性の割合が2.5倍以上に増加した。
LGA児出生頻度はいずれの血糖基準とも約9%
LGA児の出生頻度は、低基準群の新生児2,019人中178人(8.8%)、高基準群の新生児2,031人中181人(8.9%)と同程度であった(調整後相対リスク0.98、95%CI 0.80〜1.19、P=0.82)。
副次評価項目では、分娩誘発、血糖コントロールのための薬物療法など医療サービスの利用頻度が高基準群よりも低基準群で高かった。また、低基準群の新生児では新生児低血糖が特定され治療される頻度が高かった〔高基準群0.7% vs. 低基準群8.4%、調整後相対リスク1.27、95%CI 1.05〜1.54)。
その他、母体と新生児の健康状態などは両群で類似しており、有害事象にも差はなかった。
軽度妊娠糖尿病への介入に母児の健康上の利益が示唆
血糖値が両基準の下限と上限の間にあり、低基準により妊娠糖尿病と診断された治療群195人と、高基準により妊娠糖尿病と診断されなかった未治療群178人を比べたサブグループ解析では、治療群は未治療群よりLGA児の出生が少なく〔治療群12人(6.2%)vs. 未治療群32人(18.0%)、調整後相対リスク0.33、95%CI 0.18〜0.62〕、子癇前症の発症も少なかった〔同1人(0.5%)vs. 10人(5.6%)〕。一方、新生児低血糖は未治療群よりも治療群で多かった〔同53人(27.2%) vs. 16人(9.0%)〕。
サブグループ解析の結果を踏まえ、Crowther氏らは「低基準で妊娠糖尿病と診断され治療を受けた女性の63%は高基準では妊娠糖尿病に該当しなかった。しかし、こうした軽度妊娠糖尿病女性では診断されなかった女性に比べ、母児ともに健康上の利益があることが示唆された」とコメント。
以上から、同氏らは「今回の研究では、LGA児の出生リスクおよびその他の新生児/母体の合併症リスクは、基準の違いにより抑制されることはなかった。一方、両基準の間隙にあるケースにおいて診断・治療による健康上の利益が示唆されたことから、さらなる検討が必要と考えられる」と結論している。
(宇佐美陽子)