米・Mayo ClinicのSusan L. Slager氏らは、Mayo Clinicバイオバンクに登録された40歳以上の約1万例を対象に、単クローン性B細胞リンパ球増加症(MBL)のスクリーニングを実施、同定されたMBLとその後の血液悪性腫瘍および全生存(OS)との関連を調べた。その結果、追跡期間の中央値34.4カ月でlow-count MBL (LC-MBL)の有無にかかわらず同等のOSが観察されたが、追跡10年後のリンパ系腫瘍の発症リスクは、非MBL患者に比べてLC-MBL患者で4倍に増加したとBlood(2022年8月15日オンライン版)に発表した。

スクリーニング同定MBLの臨床転帰を検討  

 MBLは、慢性リンパ性白血病(CLL)の前悪性条件で、無症候性の5x109/L未満の循環クローナルB細胞の存在を特徴とする。免疫表現型(CLL様MBL、非CLL様MBL、非定型MBL)およびクローナルB細胞数〔LC-MBL:0.5x109/L未満、high-count MBL(HC-MBL):0.5x109/L~5x109/L未満〕により分類される。

 臨床で同定されたHC-MBL患者の治療を必要とするCLLへの進行リスクなどに関する研究は多数ある。一方、スクリーニングで同定されたMBL患者の臨床転帰はほとんど検討されていない。Slager氏らは、血縁者にCLL患者を複数有する448例を対象にMBLをスクリーニングした研究で、LC-MBLはCLLの診断より8年以上先行し、LC-MBL患者は年に1.1%の割合でCLLに進行したことを報告(Blood 2021; 137: 2046-2056)。また、別の1,045例を対象としたスクリーニング研究で、LC-MBLは、非MBLと比べて感染による入院リスクが1.6倍であることを報告している(Leukemia 2021; 35: 239-244)。

血液悪性腫瘍への進行とOSを評価  

 今回の研究の対象は、Mayo Clinicバイオバンクに2009~16年に登録された血液腫瘍の既往歴がない40歳以上の患者で、登録時に末梢血単核細胞(PBMC)を分離・緩慢凍結処理した4,207例(発見コホート)および2017年時点で生存し血液試料を提供した患者5,932例(検証コホート)、合計1万139例(平均年齢66歳、男性39%)で、8色フローサイトメトリーを用いてMBLのスクリーニングを実施した。HC-MBLは、クローナルB細胞数の割合がB細胞総数の85%以上と定義した。

 主要評価項目は、血液悪性腫瘍への進行とOSとした。Cox回帰を用いてMBLとの関連を評価し、性・年齢調整ハザード比(HR)を推定した。

LC-MBLは34カ月時のOSに影響せず  

 スクリーニングの結果、全コホートでMBL群1,712例(17%)と対照群8,174例(81%、非MBL)を同定、253例(2%)は評価できなかった。MBL有病率は、発見(15%)および検証コホート(19%)で類似していたため、両コホートを統合して9,866例を解析した。MBL患者の年齢中央値は72歳と対照群(65歳)より高かった(P<0.001)。MBLの有病率は、40歳代の4%から90歳代以上の42%まで年齢とともに上昇し、男女差があった(22% vs. 14%、P<0.001)。

 MBLの95%がLC-MBLで、HC-MBLは93例だった。免疫表現型は、CLL様MBLが1,451例と最も多く、これらの患者のクローナルB細胞割合の中央値は1.9%(範囲0.1~100%)で、HC-MBLは52例だった。  

 全コホートをスクリーニングから中央値34.4カ月(範囲0~ 151.5カ月)追跡し、621例が死亡した。性・年齢調整後の5年と10年のOSは、MBL群で94.7%と82.2%、対照群で94.3%と83.8%と推定された。対照群と比べて、LC-MBL患者ではOSに有意差がなかったが(HR 1.0、95%CI 0.8~1.3、P=0.78)、HC-MBL患者では有意に短縮した(同1.8、1.1~3.1、P=0.033)。

リンパ系腫瘍への進行リスクはHC-MBLで74倍、LC-MBLで4倍  

 発見コホートでは、追跡期間中央値10年時点で31例(MBL群214例中13例、対照群1,437例中18例)が血液悪性腫瘍を発症し、その3分の2がリンパ系腫瘍だった。性・年齢調整後の5年および10年の血液悪性腫瘍の累積発症率は、MBL群で3.3%と5.8%、対照群で0.8%と 1.1%と推定された。

 MBL群では対照群に比べて、性・年齢調整後の血液悪性腫瘍リスクが3.6倍(95%CI 1.7~7.7、P<0.001)、リンパ系腫瘍リスクが7.7倍(同3.1~19.2、P<0.001)に増加した。対照群と比較したリンパ系腫瘍への進行リスクは、HC-MBL患者(15例)で74倍(95%CI 22.3~245.9、P<0.001)、LC-MBL患者(199例)で4.3倍(同1.4~12.7、P=0.009)に増加した。

LC-MBLによる臨床的影響を示唆  

 以上の結果から、Slager氏は「今回の大規模コホート研究では、LC-MBLの有無にかかわらず同様の生存率が観察されたが、LC-MBL患者でリンパ系腫瘍リスクが増加した。米国では40歳以上のMBL患者数は800万~1,000万人と推定される。LC-MBL患者は重篤な感染症リスクが高いというこれまでの研究結果も考慮すると、LC-MBLが臨床的影響を及ぼすことが示された」と結論している。  

 また、同氏は「スクリーニングコホートでMBLは17%と一般的に見られ、MBL患者はCLLなどの血液悪性腫瘍に進行することが分かった。年次進行率は約0.5%と推定される。一方、CLLの強い家族歴を有する人のコホートでは、LC-MBLからCLLへの年次進行率が1.1%と報告した。家族性コホートでは、CLLリスクの遺伝的要素が強いため、より高い進行率が予想される」とコメントしている。

(坂田真子)