手術部位感染(SSI)はあらゆる手術に起こりうる主な術後合併症の1つである。その予防策として術前にさまざまな皮膚用消毒薬が使用されているが、選択すべき消毒薬に関してはガイドライン(GL)によって異なる推奨が示されている。こうした中、オランダ・University of AmsterdamのHasti Jalalzadeh氏らは各種消毒薬の、または同種類の消毒薬の異なる濃度におけるSSI予防効果を比較したランダム化比較試験(RCT)のシステマチックレビューとネットワーク・メタ解析を実施。SSIの低減効果に最も優れているのは、2.0~2.5%クロルヘキシジン含有アルコール製剤と1.5%オラネキシジン製剤であったとする解析結果をLancet Microbe(2022年8月16日オンライン版)に発表した。
各専門機関で異なる指針、濃度の基準も示されず
SSIは術後合併症の1つで、死亡率の上昇、医療費の増大との関連が指摘されている。SSIの予防には皮膚用消毒薬の術前使用の有効性が確立されているが、どの消毒薬がSSIの予防効果に最も優れているかについては議論が続いている。
SSI予防に関するガイドライン(GL)は、世界保健機関(WHO)や英国立臨床評価研究所(NICE)ではクロルヘキシジン含有アルコール製剤を推奨する一方、米疾病対策センター(CDC)は種類にかかわらず全てのアルコール製剤を推奨するなど、見解は一致していない。また、いずれのガイドラインにおいても使用すべき消毒薬の濃度について明確な基準値は示されていない。
そこで、Jalalzadeh氏らは今回、SSI予防における各種皮膚用消毒薬や各薬剤を異なる濃度で用いた場合の有効性を比較検討するため、システマチックレビューとネットワーク・メタ解析を実施した。
まず、MEDLINE、Embase、Cochrane CENTRALのデータベースを用いて2021年11月23日までに発表された、成人の手術患者を対象に2種類以上の皮膚用製剤(クロルヘキシジン、ヨウ素、オラネキシジン)を比較したランダム化比較試験(RCT)と各薬剤を異なる濃度で比較したRCTの文献を検索。今回のシステマチックレビューの基準を満たした33件のうち27件(計1万7,735例)を対象にネットワーク・メタ解析を行った。なお、27件のRCT全体のSSI発生率は12.1%だった。
清潔手術では濃度にかかわらずクロルヘキシジン含有アルコール製剤が有効
解析の結果、水溶性ヨウ素系製剤と比べてSSI発生率の抑制に有意に優れていたのは、2.0~2.5%クロルヘキシジン含有アルコール製剤〔相対リスク(RR)0.75、95%CI 0.61~0.92〕および1.5%オラネキシジン製剤(同0.49、0.26~0.92)のみであった。
0.5%および4.0%クロルヘキシジン含有アルコール製剤の有効性も示唆されたが(0.5%クロルヘキシジン含有アルコール製剤:同0.69、0.47~1.02、4.0%クロルヘキシジン含有アルコール製剤:RR 0.67、95%CI 0.32~1.40)、信頼区間が広く、統計学的に有意ではなかった。一方、水溶性クロルヘキシジン製剤およびヨウ素含有アルコール製剤の有効性は、水溶性ヨウ素系製剤と同程度であった。
また、清潔手術に限定すると、濃度の異なるクロルヘキシジン含有アルコール製剤の間にSSIの予防効果の差は認められなかった。さらに濃度にかかわらず全てのクロルヘキシジン含有アルコール製剤を1つの群にまとめて分類したサブグループ解析では、水溶性ヨウ素系製剤と比べてクロルヘキシジン含有アルコール製剤はSSIの予防効果が有意に高いことが示された(RR 0.60、95%CI 0.36~0.99)。一方、ヨウ素含有アルコール製剤には水溶性ヨウ素系製剤を有意に上回る効果は認められなかった。
1.5%オラネキシジン製剤のRCTは1件のみ、追加の検討必要
Jalalzadeh氏らは「われわれは当初、SSIの予防効果に最も優れた消毒薬は高濃度のクロルヘキシジンを含有するアルコール製剤であるとの仮説を立てていた。しかし、水溶性ヨウ素系製剤と比べてSSIの低減効果が有意に優れているのは、2.0~2.5%クロルヘキシジン含有アルコール製剤および1.5%オラネキシジン製剤であることが示された。清潔手術に関しては、濃度にかかわらずクロルヘキシジン含有アルコール製剤の術前使用が推奨される」と説明。
一方、1.5%オラネキシジン製剤に関しては「最も効果が高いことが示されたが、2015年から使用可能となったばかりで同製剤に関するRCTは1件のみであったことから、さらなる検討が必要だ」と付言している。
(岬 りり子)