「次の感染症危機」に備えた政府の体制強化策が30日、明らかになった。混乱続きだった2年8カ月の新型コロナウイルス対応を踏まえ、具体策には行政権限の抜本強化を図る「指示」や「罰則」の文言が並んだ。政府は秋の臨時国会と来年の通常国会に関連法案を提出する方針で、与野党の論戦で議論となるのは必至だ。
 「対応を徹底的に分析し、何がボトルネックだったのかを検証する。そして、危機管理を抜本的に強化する」。体制強化策は岸田文雄首相が昨年10月、就任直後の所信表明演説でこう表明したのを受けたものだ。有識者会議が6月に検証結果を取りまとめ、政府が具体策を検討していた。
 政府がまず狙うのが医療崩壊の阻止だ。日本は人口当たりの病院や病床数が欧米に比べて多いにもかかわらず、コロナ禍では病床が足りず、自宅で亡くなる感染者も少なくなかった。背景には小規模な病院が多い構造的問題に加え、医療機関の協力が広がらなかったこともあるとされる。
 こうした問題を克服するため、具体策は公立・公的医療機関などに医療提供を「義務付け」ると明記。都道府県と締結した医療提供協定に医療機関が従わない場合は「勧告・指示・公表を行う」とし、指示に応じない特定機能病院などの承認は「取り消すことができる」とした。
 一方、協力した医療機関への減収補償も盛り込み、「アメとムチ」を明確にした。昨年の感染症法改正で病床確保の「勧告」を設けたが、思うように進まなかった経緯があるためだ。
 政府が行政の強制力を強めようとしているのは医療提供体制強化にかかわるものだけではない。コロナ禍初期のマスクや消毒液の不足を踏まえ、これまで要請にとどまっていた増産を緊急時には国から事業者に指示できるよう変更。厚生労働相によるワクチン臨時接種の指示も盛り込んだ。水際対策では待機指示に従わない入国者への罰則創設を打ち出した。
 コロナ対策の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」「まん延防止等重点措置」についても「要請の実効性を確保する」と強制力の強化を示唆。具体策は「引き続き検討を進める」としている。
 コロナ対応が混乱した背景には、2009年の新型インフルエンザ大流行の教訓を生かし切れなかったとの反省も政府内にはある。政府の有識者会議は報告書で「新型インフル流行後の対応が不十分だった。今度こそ、次の危機までに、取り組みを確実にする必要がある」と指摘している。
 21年に特措法や感染症法を改正した際は、立憲民主党など野党が私権制限に反発し、修正協議で入院拒否者らへの刑事罰の創設を撤回させた経緯がある。感染症法等改正案が審議される秋の臨時国会、特措法改正案が提出される来年の通常国会では、激しい議論が展開されそうだ。 (C)時事通信社