糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬は多様な作用を有し、心不全に対する有効性が多数報告されている。しかし、日本における糖尿病合併心不全患者および超高齢者に対する有効性を検討したリアルワールドデータ(RWD)は少なかった。国立循環器病研究センターオープンイノベーションセンター情報利用促進部統計解析室室長の中井陸運氏らの共同研究グループは、RWDを後ろ向きに解析、糖尿病合併心不全患者に対するSGLT2阻害薬投与による1年予後についてDPP-4阻害薬を対照に検討した。その結果、DPP-4阻害薬に比べSGLT2阻害薬は1年後の予後が良好であったとCardiovasc Diabetol2022; 21: 157)に発表した(関連記事「SGLT2がDPP-4に勝る、心イベント抑制」「SGLT2阻害薬、心疾患へのクラス効果確認」「心不全は糖尿病合併症! 薬剤選択にも要注意 米国糖尿病学会のコンセンサスレポートから」)。

NDBから抽出した30万例超を解析

 研究グループはRWDの1つであるレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)のデータを後ろ向きに解析、SGLT2阻害薬投与の1年予後を国内の2型糖尿病患者に高頻度で使用されるDPP-4阻害薬を対照として検討した。

 対象は2014年4月~18年3月にNDBに登録された急性心不全初回入院患者のうち、急性冠症候群合併例、院内死亡例、退院時に心不全治療薬が投与されていない例を除いた30万398例。評価項目は1年以内の全死亡、心不全による再入院および再入院とした。

 主な背景は、75歳以上が21万6,016例(71.9%)、男性が15万597例(50.1%)、糖尿病合併が9万7,682例(32.5%)。SGLT2阻害薬投与は2,277例、DPP-4阻害薬投与は4万1,410例、両方を併用していたのは3,227例だった。DPP-4阻害薬投与例に比べ、SGLT2阻害薬投与例は年齢が若く、心不全治療薬(β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、ACE阻害薬/アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)の併用が多い傾向が見られた。

SGLT2阻害薬投与で死亡リスク、再入院リスク減

 傾向スコアマッチング法で年齢、性、強心薬の使用、入院中の処置などを調整した解析の結果、DPP-4阻害薬群に対しSGLT2阻害薬群では全死亡リスクが全体で30%低く〔ハザード比(HR)0.70、95%CI 0.56~0.89〕、75歳以上では32%低かった(同0.68、0.51~0.90)。心不全再入院リスクはそれぞれ48%(同0.52、0.45~0.61)、41%低かった(同0.59、0.47~0.74)。再入院リスクについても、38%(同0.72、0.66~0.79)、34%低かった(0.76、0.65~0.87)。

 以上を踏まえ、中井氏らは「糖尿病合併心不全患者に対するSGLT2阻害薬の使用は、DPP-4阻害薬よりも良好な予後との関連が示された」と結論。「超高齢社会を迎えた日本におけるRWDエビデンスとして、超高齢者の治療を含む幅広い医療現場における診療向上に資することが期待される」と付言している。

(小野寺尊允)