オーストラリア・University of New South WalesのVerinder S. Sidhu氏らは、同国の31施設において人工股関節全置換術(THA)または人工膝関節全置換術(TKA)を受けた約9,700例を対象に、抗血小板薬アスピリンと抗凝固薬エノキサパリンによる静脈血栓塞栓症(VTE)の予防効果を検討するクロスオーバークラスターランダム化比較試験CRISTALを実施。その結果、術後90日以内の症候性VTEの発症率はアスピリン群で有意に高く、エノキサパリンに対するアスピリンの非劣性は示されなかったとJAMA2022; 328: 719-727)に発表した。なお、試験は中間解析後に中止基準(主要評価項目の群間差が両側検定でP=0.001)に達したとして登録を中止した。

エノキサパリン群1.82% vs. アスピリン群3.45%

 CRISTAL試験では、THA/TKAの年間施行件数が250件超の31施設を登録し、術後にアスピリン100mg/日を経口投与する16施設(アスピリン群)とエノキサパリン40mg/日を皮下投与する15施設(エノキサパリン群)にランダムに割り付けた。投与期間はTHA施行後が35日間、TKA施行後が14日間とした。16施設が最初の割り付けの登録目標数を達成後、登録中止前に他群にクロスオーバーした(エノキサパリン→アスピリン11施設、アスピリン→エノキサパリン5施設)。

 これらの施設で変形性関節症に対する初回THA/TKAを受けた18歳以上の患者9,711例(年齢中央値68歳、女性56.8%)を登録し、試験を完了した9,203例(アスピリン群5,416例、エノキサパリン群3,787例)を解析に組み入れた。

 解析の結果、全体では主要評価項目とした術後90日以内の症候性VTE〔肺塞栓症、膝上または膝下の深部静脈血栓症(DVT)〕の発症は256例で、項目別に見ると肺塞栓症が79例、膝上DVTが18例、膝下DVTが174例だった。

 主要評価項目の発症率は、アスピリン群の3.45%に対しエノキサパリン群では1.82%と有意に低かった(推定差1.97%、95%CI 0.54~3.41%、P=0.007)。95%CI上限(3.41%)が事前に設定した非劣性マージンの1%を超えたため、エノキサパリンに対するアスピリンの非劣性は示されなかった。

死亡、大出血、再手術などは有意差なし

 副次評価項目の解析では、術後90日以内の死亡(アスピリン群0.07% vs. エノキサパリン群0.05%、P=0.36)、大出血(同0.31% vs. 0.40%、P=0.75)、再入院(同2.41% vs. 2.25%、P=0.13)、再手術(同2.14% vs. 1.93%、P=0.10)、術後6カ月以内の再手術(同3.44% vs. 3.40%、P=0.75)、アドヒアランス(同85% vs. 86%、P=0.85)のいずれも両群に有意差が認められなかった。

 以上を踏まえ、Sidhu氏らは「変形性関節症に対する初回THA/TKA施行後90日以内の症候性VTEの予防効果は、アスピリンに比べてエノキサパリンで有意に大きかった」と結論。ただし、「両群におけるVTE発症率の差を生んだ主な要因が、膝下DVT発症率の有意差であったことは注視すべきである(アスピリン群2.4% vs. エノキサパリン群1.2%、推定差1.49、95%CI 0.48~2.50%、P=0.004)。膝下DVTは膝上DVTや肺塞栓症と比べて臨床的重要性が低い」と指摘し、「今回の結果の臨床的重要性をより良く理解するには、費用効果分析が必要」と付言している。

(太田敦子)