筑波大学脊椎・脊髄外科講師の船山徹氏らは、骨粗鬆症性椎体骨折の保存療法における安静臥床の有効性を検討する前向きコホート研究を実施。その結果、急性期における初期2週間の限定的な入院安静臥床は、安全で高い治療効果が得られる保存療法であることが示されたとJ Bone Joint Surg Am(2022年8月24日オンライン版)に発表。「本知見が、診療ガイドラインの策定につながるのではないか」としている。
診療ガイドラインなく、経験や慣例に基づき治療を実施
骨粗鬆症性椎体骨折は、高齢者の脆弱性骨折のうち発生頻度が最も高い。女性では、70歳代で40/1,000人・年、80歳代で84/1,000人・年と報告されている。
骨粗鬆症性椎体骨折の急性期治療は、ベッド上で安静を保つ安静臥床などの保存療法を原則とし、必要に応じて手術が行われる。しかし、エビデンスの集積が乏しく、診療ガイドラインは作成されていないため、担当医の経験や施設の慣例に基づき治療が行われているのが現状だ。画像検査では、将来の骨癒合不全を想定しうる予後不良MRI所見の検出が重視されている。
船山氏らはこれまでに、急性期の骨粗鬆症性椎体骨折に対して初期2週間の入院安静臥床による保存療法を導入し、その有効性や安全性を報告してきた。しかし、一般的に行われている安静を伴わない保存療法との比較は実施しておらず、安静臥床の必要性は不明だった。そこで今回、安静臥床の有無による治療効果の違いを比較する前向きコホート研究を実施した。
対象は、二次医療圏の異なる医療機関2施設で2018年12月~20年12月に、受傷後2週間以内に治療開始となった65歳以上の急性期骨粗鬆症性椎体骨折患者。施設によって、2週間の厳密な入院安静臥床を行う安静群(平均年齢80.4歳、116例)または疼痛の状態に合わせて離床可能とした非安静群(平均年齢81.5歳、108例)に分けた。安静群はベッドの起き上がり角度を20°までに制限し、廃用症候群の予防を目的に四肢の床上リハビリテーションを行った。離床後の外固定装具の種類と装着期間、手術療法への移行基準は施設間で統一し、併用する骨粗鬆症治療薬は担当医に一任した。観察期間は6カ月とした。
主要評価項目は、6カ月後の手術療法への移行率。副次評価項目は、非手術移行例における6カ月後の骨癒合率、椎体圧潰の進行割合、後弯変形の進行度、日常生活動作の変化とした。
安静群で椎体圧潰と後弯変形の進行が有意に抑制
その結果、予後不良MRI所見が検出されたのは、安静群で45/116例、非安静群で37/108例。手術療法に移行したのは、安静群では3例、非安静群では9例で、全例が予後不良MRI所見を有していた。
全体では、手術療法への移行率は両群で有意差がなかった(P=0.06)。しかし、予後不良MRI所見を有する例に限定したところ、手術療法への移行率は非安静群の24.3%(9/37例)に対し、安静群で6.7%(3/45例)と有意に低かった(P=0.02)。
椎体圧潰の平均進行割合は安静群で6.4%、非安静群で20.9%、後弯変形の平均進行度はそれぞれ2.4°、8.8°と、安静群で有意に抑制されていた(いずれもP<0.001)。骨癒合率と日常生活動作の変化は両群で同等だった。観察期間中の合併症の発生も、両群で差はなかった。
以上から、船山氏は「急性期の骨粗鬆症性椎体骨折の保存療法において、初期2週間に限定した入院安静臥床は骨折椎体の安定化に有用で、高齢者でも合併症が増加せず、治療効果が高い」と結論。さらに「臨床では、骨粗鬆症性椎体骨折の初期に正しい評価と適切な治療介入が行われず、結果的に偽関節や遅発性麻痺、過度な後弯変形による姿勢保持障害に至り手術を要する難治例が後を絶たない。今回得られた知見が、骨粗鬆症性椎体骨折の診療ガイドライン策定、治療体系の確立に寄与するのではないか」と期待感を示した。
(比企野綾子)