カナダ・McGill UniversityのCherie Strikwerda-Brown氏らは、2003~21年に収集された認知機能障害がない高齢者580例のデータを解析し、アルツハイマー病(AD)患者の脳内で特徴的に見られる異常なアミロイドβ蛋白質(Aβ)およびタウ蛋白質の集積と軽度認知障害(MCI)への進展との関連を脳画像PETのデータを用いて検討。その結果、アミロイドPETとタウPETの両方で異常な信号上昇が見られた高齢者の33~83%が、PET実施後2~3年以内に正常認知機能からMCIに進行したとJAMA Neurol(2022年7月30日オンライン版)に発表した。今回の知見を踏まえ、同氏らは「アミロイドPETとタウPETの異常な信号上昇が見られた高齢者は、ADに対する抗Aβ抗体などの疾患修飾療法の良い適応になりうる」としている。
無症状でもAβ+タウ陽性は生物学的にAD
米国立加齢研究所(NIA)/アルツハイマー病協会(AA)は、ADの研究に関してAβ、タウ、神経変性の3指標を用いた判定基準を提案しており、「ADの診断にはAβとタウが必須で、神経変性は重症度の判定に用いる。認知機能低下の症状がなくても、アミロイドPETとタウPETの両バイオマーカーが陽性であれば生物学的にADであるといえる」としている。
Strikwerda-Brown氏らは今回、アミロイドおよびタウPET陽性所見と認知機能正常からMCIへの臨床的進行との関連を検討した。解析対象は、①PREVENT-AD(128例)、②HABS(153例)、③AIBL(48例)、④Knight ADRC(251例)ーの独立した4つの研究コホートに登録された580例。平均年齢は67~76歳、女性が55%~74%で、PET実施時点で全例が認知機能障害はなかった。PET実施後の追跡期間の中央値は1.94~3.66年だった。
主要評価項目はMCIへの臨床的進行とした。全脳Aβ蓄積(A)と側頭葉の複数領域における平均タウPET取り込み(T)の陽性(+)/陰性(-)の結果に基づき、対象をA+T+群(7.17~12.50%)、A+T-群(20.83~25.78%)、A-T+群(0~2.61%)、A-T-(64.58~68.13%)の4群に分類し、主要評価項目の割合を比較した。なお、A-T+群は極めて少数のため解析から除外した。
Aβ、タウとも陽性+神経変性あり、MCI進行率は43~100%
解析の結果、MCI進行の割合はA+T+群以外の群では20%未満だったのに対し、A+T+群における割合はKnight ADRCで33.33%〔進行までの平均期間2.67年±標準偏差(SD)1.18〕、HABSで41.67%(同2.72年±1.49)、PREVENT-ADで54.55%(同2.00年±1.10)、AIBLで83.33%(同2.55年±1.18)と有意に多かった(全てP≦0.004)。
さらに、A+T+群のうち側頭葉の複数領域の平均皮質厚による評価で神経変性あり(N+)と判定されたA+T+(N+)群に限定した解析では、MCI進行の割合が43~100%に上昇した。
Aβ+タウでの進行リスクはAβ単独の7~29倍
Cox比例ハザードモデルによる解析では、アミロイドPETのみ陽性のA+T-群に対し、アミロイドPETとタウPETの両方が陽性のA+T+の群でMCIへの進行リスクが7~29倍に有意に高まることが示された。A+T-群に対するA+T+群におけるMCI進行のハザード比(HR)は、PREVENT-ADで6.60(95%CI 1.31~33.23、P<0.05)、AIBLで7.98(同1.05~60.95、P<0.05)、Knight ADRCで9.88(同2.36~41.67、P<0.01)、HABSで28.68(同2.92~281.54、P<0.01)だった。
また、A+T+群では、MCI非進行例の多くで認知機能正常例の平均値と比べて1.5SD以上の認知機能スコアの低下が認められた。
PREVENT-ADでは、A-T-群に比べA+T+非進行群において認知機能低下例の割合が有意に高く(80.0% vs. 27.63%、P=0.03)、HABSでも同様だった(57.14% vs. 13.86%、P=0.01)。
以上の結果から、Strikwerda-Brown氏らは「認知機能障害が見られない高齢者において、アミロイドとタウの両バイオマーカーに基づく生物学的AD判定の臨床的妥当性が裏付けられた」と結論。「認知機能障害は見られないがアミロイドとタウがともに陽性の高齢者は、短期間でMCIに進行するリスクが高く、疾患修飾薬の良い適応となる可能性がある」と付言している。
(太田敦子)