京都大学人間健康科学科准教授の福間真悟氏らは、生活習慣病(肥満や心血管疾患の危険因子)予防のための特定健康診査(メタボ健診)で行われる特定保健指導が医療機関受診や医療費に及ぼす影響を検討するため、5万1,213例を対象に後ろ向きコホート研究を実施。その結果、保健指導介入による外来受診率の低下は認められたが、医療費抑制効果は認められなかったとBMJ Open(2022; 12: e056996)に報告した(関連記事「特定健診に心血管リスク低減効果なし」)。
介入後3年間の医療機関の利用および医療費をRDデザインで解析
肥満や心血管疾患の増加は、日本を含む多くの国々で医療費増大の原因になっている。しかし、肥満や心血管疾患の危険因子に対する保健指導介入が、医療機関の利用抑制や医療費削減につながるかどうかは明らかでない。
そこで福間氏らは、日本全国で導入されているメタボ健診における特定保健指導が、医療機関の利用および医療費に及ぼす影響を調査するため、後ろ向きコホート研究を実施した。
対象は、2014年1〜12月にメタボ健診を受けた11万3,302例(40〜74歳)のうち、ウエスト周囲径がカットオフ値(男性85cm、女性90cm)の±6cmであった5万1,213例(年齢中央値50歳、女性11.9%)。
特定保健指導介入(健康的な生活習慣に関するカウンセリングおよび必要に応じて医師への紹介)への割り付けは、心血管疾患の危険因子を少なくとも1つ有することに加え、ウエスト周囲径がカットオフ値を超えている場合とした。
主要評価項目は、介入後3年間の医療機関利用(外来受診日数、投薬回数、入院回数)および医療費(総医療費、外来医療費、入院医療費)とし、2015年1月~19年12月の医療費請求データとフォローアップの結果を基に、回帰不連続(RD)デザインを用いて解析した。
高リスク集団への介入の集中が効果的な可能性
解析の結果、特定保健指導介入は、外来受診日数の減少と有意に関連していた(-1.3日、95%CI -11.4~-0.5日、P=0.03)。一方、投薬〔-3.8%ポイント(pp)、同-9.0〜1.4pp、P=0.15〕や入院(-1.2pp、同-7.2〜4.1、P=0.59)との有意な関連はなかった。
医療については、総医療費(-1,138米ドル、95%CI -4,506〜932米ドル、P=0.20)、外来医療費(46米ドル、同-2,063〜1,572米ドル、P=0.79)、入院医療費(-1,214米ドル、同-2932〜68米ドル、P=0.06)のいずれの増減とも有意な関連は認められなかった。
今回の研究結果について、福間氏らは「現在行われている特定保健指導が医療費に及ぼす影響は限定的であることが示された」と結論。
医療費抑制効果が認められなかった理由について、同氏は、①日本で導入されている特定保健指導には心血管疾患の予防効果がない、②保健指導の基準として用いられるウエスト周囲径のカットオフ値は男性の中央値に近く、介入を受けた人の多くが健康だった―可能性を挙げ、「よりリスクが高い集団に介入を集中させることが、医療機関の利用や医療費の抑制に効果的な可能性がある。特定保健指導をより効果的なものにするには、確かなエビデンスに基づき保健指導を改善することが重要だ」との見解を示している。
(今手麻衣)