欧米を中心に確認が相次いでいる感染症サル痘をめぐり、注目される抗ウイルス薬tecovirimatの最新のエビデンスが発表された。米・カリフォルニア大学デービスメディカルセンターのAngel N. Desai氏らの研究グループは、tecovirimatによる治療を受けたサル痘患者25例を対象に非対照コホート研究を実施し、同薬の有効性および安全性を検討。投与3週後に9割の患者で病変や疼痛が消失し、重篤な副作用は確認されず、良好な結果が得られたと発表。研究の詳細を、JAMAのResearch Letter(2022年8月22日オンライン版)に報告した。同薬については、日本でもサル痘に対する有効性や安全性を確認するための特定臨床研究が6月下旬に開始されている。

感染例は全世界で5万例に、日本ではわずか4例

 世界保健機関(WHO)は8月31日、世界のサル痘ウイルス感染者数が累計5万496例に達し、16例が死亡したと発表した。日本では現時点(9月5日)での感染者は4例とわずかである。

 サル痘ウイルスは主にアフリカ大陸に生息するリスなどの齧歯類が自然宿主とされ、感染した動物に噛まれたり、感染した動物の血液、体液、皮膚病変(発疹部位)との接触によって感染する。欧米を中心に感染増加が確認されており、男性同士の性行為が主な伝播の原因といわれているが、飛沫や寝具を介した感染の報告もある。

 サル痘ウイルスには天然痘ワクチン接種により約85%の発症予防効果があるとされる。一方、発症例に対する治療薬は、欧州ではtecovirimatが天然痘、サル痘に対し承認を取得。米国では天然痘に対して2018年に承認されており、サル痘にも有効性が期待され、現在Investigational New Drug(IND)としての使用が可能だ。

 日本国内では承認された治療薬はなく、厚生労働省が今年(2022年)6月29日に開催した厚生科学審議会感染症部会で、サル痘患者が国内で発生した場合に備え、国立国際医療研究センターにおいて、特定臨床研究として例外的に患者との濃厚接触者に対する天然痘ワクチンの使用を認めることや、サル痘ウイルス感染例に対しtecovirimatを投与する臨床研究体制を構築したことが報告された。

 tecovirimatは、天然痘ウイルスの外側を覆っているエンベロープに存在するウイルスの放出に関与する蛋白質VP37の働きを阻害して、体内でウイルスが広がるのを抑える抗ウイルス薬。In vitro試験では天然痘ウイルスおよびサル痘ウイルスのいずれに対しても活性を示し、健康人に投与した試験で良好な安全性プロファイルが確認されている。

9割に性器、肛門周囲病変が出現

 今回の研究は、Desai氏らがコンパッショネート・ユース(人道的見地から未承認の薬剤を許可)制度に基づきtecovirimatの投与を受けたサル痘患者25例を対象に実施した非対照コホート研究。対象患者は、2022年6月3日~8月13日に米・カリフォルニア州サクラメント郡公衆衛生局を通じて同院に紹介され、同薬による治療を受けた。全例が男性で、平均年齢は40.7歳(範囲26~76歳)だった。

 25例中9例がHIV感染例で、1例が25年以上前に天然痘ワクチン接種を受け、4例がサル痘症状出現後に天然痘/サル痘ワクチン(商品名JYNNEOS)を接種していた。

 患者は治療開始前に平均12日間にわたって症状や病変を呈しており、大半(92%)は性器または肛門周囲病変であり、全身に10カ所未満の病変が52%に見られた。その他の症状として、発熱が76%、頭痛が32%、疲労が28%、咽頭痛、悪寒が20%、腰痛が12%、筋肉痛が8%、吐き気下痢が4%で見られた。なお、全例が痛みを訴えていた。

 tecovirimatは21日間投与を受けた1例を除き、14日間投与した。投与方法は、患者の体重に応じて食後30分以内、8時間または12時間ごとに投与した。

投与7日後に4割で病変が消失、投与中止例なし

 有効性を評価した結果、病変の消失は投与開始7日後に40%、21日後には92%で認められた。途中で投与を中止した例はなかった。

 投与開始7日後に報告された有害事象は、多い順に、疲労(28%)、頭痛(20%)、嘔吐(16%)、痒み、下痢(いずれも8%)だった。ただし、Desai氏らは「有害事象は必ずしも感染に関連する症状と区別することはできなかった」としている。

 今回の知見を踏まえ、同氏らは「サル痘患者に対するtecovirimatの良好な忍容性が示され、有害事象は最小限であった」と結論。一方で、対象患者が少なく対照群が存在しなかったことから、抗ウイルス薬の有効性について「症状の持続時間や重症度別の評価は限られる」と研究の限界を挙げた。その上で「tecovirimatの有効性、至適投与量、有害事象を明らかにするには大規模研究が必要」と付言している。

(小沼紀子)