大腸がんは日本において最も患者数が多いがんで、世界的に見ても頻度が高い。一方で早期治療により、高い生存率が期待できることから、早期発見と患者負担が小さい治療法が求められている。NTT東日本関東病院(東京都)消化管内科・内視鏡部部長の大圃研氏と国立がん研究センター中央病院内視鏡センター長の斎藤豊氏らの共同研究グループは、早期大腸がん患者を対象に内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の長期成績を検討する前向きコホート研究を実施。5年の全生存率(OS)、疾患特異的生存率(DSS)、腸管温存率のいずれも良好な成績が認められたとGastroenterology(2022年7月7日オンライン版)に発表した。
従来法の課題克服が求められていた
転移リスクが少ない2cm以上の早期大腸がんの治療法には、腸管切除術と内視鏡的粘膜切除術(EMR)がある。しかし、外科手術は遺残病変が少ないものの患者負担が大きく、術後のQOLが低下する。EMRは簡便かつ短時間で治療可能だが2cm以上の病変は分割して切除するため、遺残が生じ再発の恐れがあるなどの課題があった。
それに対し、ESDは高度な技術や時間を要するものの、患者負担は小さく、大腸がんに対する2012年の保険適用以降、広く普及している。ただし、長期的な安全性と有効性に関する報告は少ない。そこで研究グループは、日本におけるESDの長期安全性と有効性を検討する前向きコホート研究を実施した。
短期、長期に分けて評価
対象は2013年~15年に国内の20施設で早期大腸がんと診断され、ESDを施行した連続患者1,740例(1,814病変)。登録後5年間、内視鏡検査、血液検査、CTによるフォローアップを行い、『大腸癌治療ガイドライン』に基づき治癒/非治癒を判定し、非治癒切除例には外科切除を追加した。主要評価項目は5年OS、5年DSS、5年腸管温存率とし、副次評価項目は一括切除率、治癒切除率、有害事象などとした。
短期観察では、一括切除の割合と有害事象の発現率を検討した。その結果、一括切除率は97%で、病理学的に追加手術が必要ないと判断された治癒切除率は91%だった。有害事象は穿孔が2.9%、術後出血が2.6%に認められたが、大半は保存的な加療での対処が可能で外科手術を要したのは0.5%だった。
5年OSは93.6%、DSSは99.6%、腸管温存率は88.6%
長期観察では主要評価項目を検討した。その結果、5年OSは93.6%、5年DSSは99.6%、5年腸管温存率は88.6%(治癒切除群は98.1%)と、いずれも極めて高かった。治癒切除後の局所再発は0.5%(8例)発生したが、全例で内視鏡による追加治療が可能だった。その一方で、大腸がん治療後の経過観察中に発見される異時性大腸がんが1%(15例)で認められ、13例に手術が施行された。
以上を踏まえ、研究グループは「大規模前向きコホート研究により、大腸ESDの長期成績が初めて明らかになった。高い治癒切除が期待でき、長期的な有効性および安全性が示されたことから、EMRでの一括切除が困難な2cm以上の早期大腸がんに対する第一選択になりうる」と結論。その上で、「局所再発は0.5%と低かったが、異時性大腸がんが1%に認められたことから、ESDでも術後の定期的なフォローアップが重要である」と付言している。
(小野寺尊允)