スタチン服用時の筋症状に関しては、非常にまれであるとのエビデンスがあるにもかかわらず、いまだに根強い懸念がもたれている。英・University of OxfordのChristina Reith氏らCholesterol Treatment Trialists' Collaborationは、大規模かつ長期の二重盲検ランダム化比較試験(RCT)23件から約15万5,000例の個人データを組み入れたメタ解析により、スタチンの副作用とされる筋症状について詳細な検証を実施。こうした副作用が極めてまれであることをあらためて示した。詳細はLancet(2022年8月29日オンライン版)に掲載された。
1,000例以上、二重盲検、2年以上治療のRCTのみ組み入れ
スタチンによる実質的な筋損傷が極めてまれであることは、クレアチンキナーゼ(CK)値の変化を検討したRCTにより示されており、発症率は筋疾患全体で1万人・年当たり1例、横紋筋融解症では10万人・年当たり2~3例である。また、RCTデータの検証により、こうした"副作用"のほとんどが、いわゆるノセボ効果であることも示されている。しかし、実臨床に基づく交絡やバイアスの入った観察研究の影響などもあり、スタチン関連の筋有害事象に対する懸念は根強く残っている。
今回の研究では、1,000例以上を二重盲検で割り付け2年以上治療したRCTのみを組み入れて、個人データを抽出し、標準的な逆分散加重法を用いて、筋症状に対するスタチンの影響についてメタ解析を実施した。
組み入れ基準に合致した試験は、スタチンとプラセボの比較が19件、12万3,940例〔平均年齢±標準偏差(SD)63±8歳、女性比率27.9%、血管疾患既往48.1%、糖尿病既往18.5%〕で、高強度スタチン治療と中・低強度スタチン治療の比較が4件、3万724例〔同62±9歳、19%、100%、15%〕だった。
プラセボとの比較で全期間3%、最初の1年で7%の超過
スタチン治療とプラセボを比較した19件では、加重平均の追跡期間中央値4.3年の間に、筋痛症または筋力低下が報告されたのは、スタチン群1万6,835例(27.1%)、プラセボ群1万6,446例(26.6%)で、スタチン群における相対超過率は3%〔率比(RR)1.03、95%CI 1.01~1.06〕だった。
スタチン群における筋痛症または筋力低下の発現は、最初の1年間が最も顕著で、プラセボ群と比べ7%相対的に増加した(RR 1.07、95%CI 1.04~1.10)。これは、1,000人・年当たりの絶対超過率11イベント(95%CI 6~16イベント)に相当し、スタチン群における筋関連イベントのうち、実際にスタチンによるものは15例に1例のみ〔計算式:(1.07-1.00)/1.07〕であることを示している。
2年目以降の報告では、スタチン群における筋痛症または筋力低下の有意な超過は認められなかった(RR 0.99、95%CI 0.96~1.02)。
心血管便益は大、不耐患者の評価と危険因子への対処が必要
プラセボと比較したスタチン治療における筋症状のRRは、低・中強度治療の1.03(同1.00~1.05)に対し、高強度治療(アトルバスタチン40~80mgまたはロスバスタチン20~40mgの1日1回投与)では1.08(95%CI 1.04~1.13)と高かった。
スタチンの種類や臨床条件を問わず、2年目以降は高強度治療による筋症状の超過に関して明確なエビデンスは認められなかった。
スタチン治療によるCK中央値の上昇は小さく(基準値上限の約0.02倍)、臨床的に有意ではなかった。
Reith氏らは「スタチン治療時の筋症状はほとんどが軽度であり、全報告の90%超は、スタチンによるものではなかった」と結論している。
ポーランド・Medical University of LodzのMaciej Banach氏はLancetの付随論評(2022年8月29日オンライン版)で、今回のメタ解析の対象は非常に絞り込まれた集団で、ほとんどの患者でCK値のデータが欠落していることから解釈に注意が必要だとしながらも、筋症状に対するスタチンの寄与度を初めて示した意義を強調。「可逆的なスタチン不耐の危険因子に対処すれば、スタチン不耐は100例に1例となるかもしれない。こうした小さな筋症状リスクは、明確に実証されているスタチンの心血管への便益と比べれば重要ではない」と指摘している。
(小路浩史)