ケトン体産出レベルまで糖質の摂取を制限するケトン食療法が近年注目されている(関連記事「ケトン体は味方だった!」)。過剰な体重および体脂肪量は片頭痛に関与しているとの指摘もあり、複数の研究からケトン食が片頭痛に対し有効であることが示されている。こうした中、イタリア・Santa Maria della Misericordia University HospitalのMariarosaria Valente氏らは、ケトン食療法を受けた片頭痛患者を対象とした後ろ向き観察研究を実施。3カ月間の介入後に1カ月当たりの片頭痛日数や急性期治療薬の使用日数が有意に減少し、ケトン食療法に反応した患者と反応しなかった患者のいずれも同程度の体重減少が見られたとする結果をJ Clin Med(2022; 11: 4946)に報告した。ケトン食療法による片頭痛発作の抑制には、体重や体脂肪量の減少以外の機序が関与している可能性を示した。
前兆のある片頭痛患者8例を含む23例を解析
片頭痛は頻度が高い神経疾患の1つで、一般人口における有病率は約12%と推定されている。片頭痛発作の予防にはさまざまな治療法があるが、従来の経口薬で効果が得られる患者の割合は40~50%にとどまることが報告されている。
そこで注目されているのが非薬物療法だ。片頭痛に対する非薬物療法としては、食事療法や心理療法、リラクセーションやバイオフィードバック療法などの行動療法、理学療法などの有用性が検討されてきた。また、食事と片頭痛の関連が示され、減量が片頭痛の改善に有効である可能性も示唆されていることから、さまざまな栄養学的介入についても研究が行われている。
こうした中、Valente氏らは当初てんかんの治療法として開発され、近年は片頭痛の改善効果が非臨床および臨床データで示されているケトン食に着目。ケトン食は現在、減量法の1つとしても広がりつつあり、片頭痛には過剰な体重や体脂肪が関与していることが指摘されている。同氏らは今回、片頭痛に対するケトン食の効果が体重や体脂肪の減少のみによるものなのか否かを検討するため、3カ月間のケトン食療法を受けた片頭痛患者を対象に後ろ向き観察研究を実施した。
解析対象は、組み入れ基準を満たした33例のうち、3カ月間のケトン食療法の終了時に評価を受けていた23例(平均年齢47.22歳、女性22例)。診断は前兆のある片頭痛が8例、前兆のない片頭痛が15例、反復性片頭痛が13例、慢性片頭痛が10例、薬物乱用頭痛が6例だった。肥満および過体重の患者は、それぞれ5例、8例だった。
6割以上の患者で頭痛日数が半減
解析の結果、1カ月当たりの頭痛日数(平均±標準偏差)は介入前の12.5±9.5日から介入後には6.7±8.6日に有意に減少していた(P<0.001)。頭痛日数の減少は73.9%(17例)で認められ、治療反応例(頭痛日数が50%以上減少した患者)には65.2%(15例)が該当した。
急性期治療薬の平均使用日数も、介入前の11.06±9.37日から介入後には4.93±7.99日へと有意に減少していた(P=0.008)。
一方、平均体重は介入前の73.8±15.2kgから介入後には68.4±14.6kgへ、平均BMIは介入前の26.9±6.2から介入後には23.7±8.1gへと有意に低下していた(全てP<0.001)。また、体脂肪量は介入前の28.6±12.5kgから介入後には20.6±9.8kgに有意に減少していた(P<0.001)。一方で、除脂肪量には有意な変化は認められなかったことから(P=0.802)、介入後に認められた体重減少は主に体脂肪量の減少によるものと考えられた。なお、治療反応例と非治療反応例で体重や体脂肪の減少量に差はなかった。
以上から、Valente氏らは「ケトン食療法は片頭痛に対する有効かつ安全な予防療法になりうるとともに、体重や体脂肪の減少の面でも有用である」と結論。その上で、体組成への影響についてはケトン食療法の反応例と非反応例で差がなかったことから、「ケトン食療法後に認められた片頭痛の改善は、体重減少以外の機序に起因している可能性がある」との見方を示している。
(岬りり子)