ドイツ・University Hospital LeipzigのSong‑Yau Wang氏らは、1996~2019年に自家造血幹細胞移植(ASCT)を受けた初発多発性骨髄腫(NDMM)患者540例を対象に、導入療法に関する単一施設のデータを後ろ向きに分析。その結果、第Ⅱ/Ⅲ相試験で通常除外される併存症を有する139例が含まれたものの、無増悪生存(PFS)中央値が39カ月、全生存(OS)中央値が79カ月と過去30年間に実施されたASCTの試験と比べて遜色ない成績が示されたとJ Cancer Res Clin Oncol(2022年8月20日オンライン版)に発表した。同氏らは「実臨床では、臨床試験の対象よりもはるかに多くの患者がASCTの恩恵を受ける可能性がある」と指摘している。
臨床試験では患者の半数以上が除外
多発性骨髄腫(MM)の発症率は、10万人当たり9例以上とされ(日本では10万人当たり約5例)、ドイツでは2020年の新規患者数が約7,600例と推定される。診断時の年齢中央値は73歳で、約35%が65歳未満と報告されており、これらの患者では大量化学療法併用ASCTが標準治療となっている。一方、ASCTの第Ⅲ相試験では、厳格な適格・除外基準によりNDMM患者の半数以上が通常除外されている。
今回の対象は、1996年1月~2019年12月にUniversity Hospital Leipzigで、第一選択薬による導入療法後に大量化学療法併用ASCTを受けたNDMM患者連続540例。2020年5月まで後ろ向きに追跡し、導入療法の変遷による予後への影響を検討した。診断時の年齢中央値は59歳、男性が62%を占めていた。
26%が除外基準に該当
追跡期間中央値は85カ月で、Kaplan-Meier法で推定した導入療法開始からのPFS中央値は39カ月(95%CI 36.7~41.3カ月)、OS中央値は79カ月(同74.1~83.9カ月)だった。
デンマークのMMレジストリ(Leukemia 2019; 33: 546-549)に従うと、ほとんどの第Ⅲ相移植試験の除外基準に1項目以上該当する139例(26%)が含まれていた。内訳は、POEMS症候群/アミロイドーシス/形質細胞性白血病が3%、推算糸球体濾過率(eGFR)40mL/分/1.73m2未満が14%、重症心機能障害が3%、全身状態(ECOG PS)3~4が6%、過去5年以内の悪性腫瘍の既往4%およびその他の重症併存症が7.1%。これらの患者と臨床試験の適格基準を満たす患者の転帰に有意差はなかった(PFS中央値:36カ月vs. 41カ月、P=0.78、OS中央値:78カ月vs. 79カ月、P=0.34)。
重度の腎機能障害/腎不全/透析患者の多く(59%)がBPV〔ベンダムスチン+プレドニゾロン(PSL)+ボルテゾミブ(BOR)〕による導入療法を受けた。腎機能障害が軽度(eGFR 60~89 mL/分/1.73m2)、中等度(同30~59 mL/分/1.73m2)、重度(同 15~29 mL/分/1.73m2)、腎不全/透析(同15 mL/分未満/1.73m2)の患者間でPFS中央値およびOS中央値に有意差はなかった。
導入療法の変遷に伴いPFSが改善
2005年までの導入療法は、VAD療法〔ビンクリスチン(VCR)+ドキソルビシン(DXR)+デキサメタゾン(DEX)〕などの主に従来の化学療法で構成されていた。その後数年間で、BORを含む3剤併用療法:PAD療法(BOR +DXR+DEX)、VMP療法(BOR+メルファラン+PSL)、VCD療法(BOR+シクロホスファミド+DEX)、BPV療法が最も一般的な治療選択肢となった。
導入療法の変遷による影響を検討したところ、現行のBPV療法群(47カ月)またはVCD療法群(54カ月)では、従来のVAD療法群(35カ月、P<0.03)、PAD療法群(39カ月、P<0.01)、VMP療法群(36カ月、P<0.01)と比べていずれもPFSが有意に改善した。しかし、OS中央値には有意差はなかった(VAD療法78カ月、PAD療法74カ月、VMP療法72カ月、BPV療法80カ月※VCD療法は追跡期間が21カ月と短いため比較せず)。
BOR含む3剤併用でより高リスク患者が移植適応に
以上の結果から、Wang氏らは「リアルワールドデータを用いた後ろ向き分析から、比較的若年のMM患者の第一選択治療としてのASCTの高い有効性が示された。臨床試験の厳格な適格・除外基準を満たす患者に加えて、移植適格に分類される腎不全などの重大な併存症を有する患者もASCTの恩恵を受けられる可能性がある」と結論している。
その上でASCTの導入療法の進歩による影響について、同氏らは「当院で移植を受けた患者のリスクプロファイルは過去25年間で大きく変化した。年齢中央値は57歳から62歳に上昇、全身状態が悪化した患者(ECOG 2以上)への移植が有意に増加した。2011年以降、導入療法としてBORを含む3剤併用療法が確立され、現行のBPV療法とVCD療法では従来のレジメンに比べてPFSの有意な改善が見られた」と総括している。
(坂田真子)