慢性腎臓病(CKD)患者では、腎機能低下に伴う栄養摂取量の減少、身体活動の低下により、骨格筋量が減少する。また過剰な蛋白質の摂取は腎機能低下につながるため、腎機能保護の観点から制限するという考えが一般的だった。一方、厳格な蛋白質制限はサルコペニアのリスクを高め、生命予後の悪化に関連するとの指摘もある。大阪公立大学大学院泌尿器病態学の香束昌宏氏らの研究グループは、腎移植レシピエントを対象に骨格筋量と蛋白質摂取量との関連を検討するコホート研究を実施。その結果、移植12カ月後の骨格筋量と蛋白質摂取量は正の相関を示し、十分な蛋白質を摂取することで骨格筋量が維持され、サルコペニアの予防や生命予後の改善が期待できるとClin Nutr(2022 ; 41: 1881-1888)に発表した(関連記事「蛋白質制限は患者に害をなす医療?」)。
レシピエント64例、ドナー17例で検討
研究グループはこれまで、腎移植レシピエントでは移植後の腎機能改善に伴い骨格筋量が増加することを報告している(Transplant Proc 2022; 54: 346-350)。一般にサルコペニアの予防・改善には栄養療法と運動療法が推奨されており、腎移植後の骨格筋量回復には蛋白質摂取量が関連すると推定される。しかし、腎移植レシピエントを対象に骨格筋量と蛋白質摂取量の関係を調べた報告はほとんどない。そこで研究グループは、腎移植レシピエント64例と腎移植ドナー17例(対照群)を対象に骨格筋量と蛋白質摂取量の関連を検討するコホート研究を実施した。
骨格筋量は、生体電気インピーダンス法(BIA)を用いて腎移植前、移植1カ月後、移植12カ月後の骨格筋指数(SMI)を算出。1日当たりの蛋白摂取量は、24時間蓄尿に基づくMaroniの式で推算した。
0.72g/kg標準体重/日未満で骨格筋量減少
検討の結果、レシピエント群のSMI中央値は腎移植前の7.26に対し、移植1カ月後にはいったん7.01に減少したものの移植12カ月後には7.55と移植前よりも増加した。対照群では、それぞれ6.24、6.40、6.95と経時的な増加が見られた。
年齢、性、入院期間、糖尿病などを調整した多変量解析の結果、レシピエント群では腎移植12カ月後の骨格筋量が蛋白質摂取量と正の相関を示した(P=0.015)。腎移植前よりも骨格筋量が減少する蛋白摂取量の予測値は0.72g/kg標準体重/日未満と推算された(図)。
図. 腎移植12カ月後の骨格筋量と蛋白摂取量との関連
(大阪公立大学プレスリリースより)
以上の結果を踏まえ、研究グループは「腎移植レシピエントが対象のコホート研究において、骨格筋量と蛋白質摂取量に正の相関が示された。蛋白質制限を緩和し十分な量を摂取することで、骨格筋量が維持され、サルコペニアの予防や生命予後の改善が期待できる」と結論。「研究では高蛋白質摂取が腎機能に及ぼす影響は調べておらず、過剰摂取を推奨するものではない。今後、腎移植レシピエントにおいて腎機能の低下を防ぎ、サルコペニアの予防に適した蛋白質摂取量を明らかにする必要がある」と付言している。
(小野寺尊允)