台湾・National Yang Ming Chiao Tung UniversityのShiue-Shan Weng氏らは、受胎方法と小児がんとの関連を検討するため、約230万例の親子を対象とした全国規模のコホート研究を実施。その結果、生殖補助医療技術(ART)による妊娠で生まれた児は、自然妊娠や不妊症でもARTを利用しない妊娠で生まれた児に比べて小児がんのリスクが高かったとJAMA Netw Open2022; 5: e2230157)に報告した。

台湾の新生児20人に1人はARTにより生まれる

 ARTの利用は世界中で増加しており、台湾では2018年、新生児の約20人に1人がARTによる妊娠で生まれている。しかし、不妊症の親や不妊治療を受けた親から生まれた児では、エピジェネティック変化や周産期の有害な転帰のリスクが高くなることが分かっており、小児がんとの関連も示唆されている。そこでWeng氏らは受胎方法と小児がんとの関連、および両者の間に早産低出生体重児が介在する可能性を明らかにするため、人口ベースのコホート研究を実施した。

 対象は、2004年1月1日〜17年12月31日の母子健康データベースと関連する全国行政データベースに含まれていた両親(父親の平均年齢33.28歳、母親の平均年齢30.83歳)と児230万8,016例(男児52.06%、早産8.16%、低出生体重児7.38%)。そのうち、小児がんを発症した計1,880例の児(13歳まで)を特定し、2020年9月1日〜22年6月30日のデータを解析した。親の年齢が20歳未満、妊娠中にアルコール、喫煙、薬物の中毒やがんの既往がある親、精子や卵子の提供による妊娠、指標となる児と同じ年に生まれた兄弟、外国出身の親は除外した。

 妊娠の様式で、自然妊娠(179万4,555例)、不妊症・非ART(46万6,309例、不妊症診断はあるがARTは利用していない)、ART(4万7,152例、不妊症診断がありARTを利用)の3群に分類した。ART群に分類する要件は、両親のどちらかが不妊症の診断を受けていること、ART後の臨床妊娠が記録されていること(新鮮胚または凍結胚)、1世帯に複数の子どもがいる場合にARTによって生まれた児を特定するため出生日は移植日から290日以内(約44週の妊娠期間)であることとした。

 主要評価項目は、国際小児がん分類第3版による小児がんの診断とした。妊娠形態と小児がんとの関連は、両親の年齢、児の出生年や性別、パリティ、出生時の世帯収入、居住地の都市化レベル、中絶歴で調整し、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)を推定した。

白血病と肝腫瘍のリスクが特に上昇

 解析の結果、1,490万人・年〔中央値6年、四分位範囲(IQR)3〜10年〕の追跡期間中、ART群は多胎妊娠〔2万3,081例(48.95%)〕、早産〔1万7,185例(36.45%)〕、低出生体重〔1万7,141例(36.35%)〕の割合が最も高かった。

 100万人・年当たりの小児がんの発生率は、あらゆる種類の小児がん(ART群203.1、不妊症・非ART群137.6、自然妊娠群121.4)、白血病(同56.2、同34.4、同29.8)および肝腫瘍(同34.6、同9.9、同8.2)においてART群で最も高く、続いて不妊症・非ART群、自然妊娠群の順であった。網膜芽細胞腫の発生率も、ART群(22.3)では自然妊娠群(5.6)および不妊症・非ART群(5.3)より高かった。

 ART群では、自然妊娠群(HR 1.58、95%CI 1.17〜2.12)および不妊症・非ART群(同1.42、同1.04〜1.95)と比べてあらゆる種類の小児がんのリスクが高く、特に白血病と肝腫瘍のリスクが上昇していた。早産と低出生体重は、ARTと不妊症・非ARTに関連していることが示されたが、ART群における小児がんリスクの増加に、早産や低出生体重の介在は認められなかった。

 以上から、ARTで出生した児は、自然妊娠や不妊症でもARTを利用せずに出生した児に比べて小児がんのリスクが高かった。また、ARTで出生した児における小児がんリスクの増加は、早産や低出生体重に起因するものではないことも示唆された。

 今回の結果について、Weng氏らは「ART治療を受けようとする夫婦に対して、小児がんのリスクが高くはないものの、有意に増加することを伝える必要がある」と述べている。

(今手麻衣)