経口第Ⅺa因子阻害薬asundexianの抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)への上乗せは、急性心筋梗塞(AMI)後の出血を増加させないことが示された。米・Duke University School of MedicineのJohn H. Alexander氏らは、AMI発症後の患者を対象にasundexianの安全性と有効性を検討する第Ⅱ相試験PACIFIC-AMIの結果を、欧州心臓病学会(ESC 2022、8月26~29日)で報告した。詳細はCirculation(2022年8月27日オンライン版)に同時掲載された。(関連記事「新規FXIa阻害薬で出血リスクが低下」)
止血するが、出血させない
AMI患者は発症後に心血管死、心筋梗塞、脳卒中、ステント性血栓症などの虚血イベントリスクが上昇するため、アスピリンとP2Y12阻害薬を用いるDAPTはこれらのリスクを低下させる効果的なAMI後の標準治療とされるが、出血リスクが上昇することが問題だった。一方、ワルファリンや第Ⅹ因子阻害薬リバーロキサバンなどの経口抗凝固薬は虚血イベントの再発予防に有効とされるが、抗血小板薬に経口抗凝固薬を上乗せすることで出血リスクが上昇するためAMI後の使用は限定されていた。
血管傷害時に新規経口抗凝固薬であるasundexianを使用すると、接触経路上流で第Ⅺa因子の活性化、トロンビンの増幅が抑制され血栓症が予防されるが、組織因子経路から産生されるトロンビンによって止血に有用な血栓は形成されるため、虚血イベントの再発を予防しても出血は発生させないと考えられる。
そこでPACIFIC-AMI試験では、DAPT(アスピリン+P2Y12阻害薬)で治療中のAMI後患者に対するasundexian 3用量(10、20、50mg/日)の薬力学、安全性、有効性をプラセボと比較検討した。
50mg/日群で第Ⅺa因子活性を90%抑制
2020年6月~21年7月に14カ国157施設で登録した45歳以上のAMI発症後5日以内の患者1,601例をasundexian 10mg/日群(397例)、20mg/日群(401例)、50mg/日群(402例)、プラセボ群(401例)の4群に1:1:1:1でランダムに割り付け、6~12カ月間治療した。追跡期間中央値は368日だった。
患者背景は4群で同等で、年齢中央値は68歳、女性が25%、白人が85%、アジア人が13%、体重は中央値で80kg。糖尿病が40%、心筋梗塞(MI)の既往が25%、脳卒中の既往が5%を占め、脳卒中発症からの日数中央値は4日だった。ST上昇型心筋梗塞(STEMI)と非STEMI(NSTEMI)が各50%、MIに対し全例に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が施行されていた。P2Y12阻害薬はチカグレロル/プラスグレルが80%、クロピドグレルが20%に使用されていた。
薬力学的分析では、asundexianの第Ⅺa因子に対する効果を、ベースライン時と比較した4週時のトラフ値(投与24~28時間前)およびピーク値(投与2~4時間後)の第Ⅺa因子活性の割合で評価した。
安全性の主要評価項目は、Bleeding Academic Research Consortium(BARC)出血基準で著明な出血(2、3、5型の複合)とした。
有効性の主要評価項目は、心血管死、心筋梗塞、脳卒中またはステント血栓症の複合とした。
ベースライン時に対する4週時の第Ⅺa因子活性の割合を見ると、トラフ値、ピーク値ともに用量依存性の低下が認められた。第Ⅺa因子活性のトラフ値の平均はasundexian 10 mg/日群がベースライン時の35%、同20mg/日群が21%、同50mg/日群が9%で、ピーク値はそれぞれ23%、14%、7%だった。50mg/日群ではトラフ値、ピーク値ともに90%超の抑制が認められた。
安全性に関して複合出血イベントの複合は、asundexian 10mg/日群の7.6%、20 mg/日群の8.1%、50mg/日群の10.5%、プラセボ群の9.0%に認められた。複合出血イベント発生率は、プラセボ群と全asundexian群の合計で有意差は認められず〔ハザード比(HR)0.98、90%CI 0.71 ~1.35〕、プラセボ群とasundexian 50mg/日群でも有意差は認められなかった(同1.20、0.83 ~1.75)。全ての出血発生率についても、プラセボ群と全asundexian群、プラセボ群とasundexian 50mg/日群に有意差はなかった。
虚血イベント抑制に有意差なし
主要評価項目の複合イベント発生率は、asundexian 10mg/日群の6.8%、20 mg/日群の6.0%、50mg/日群の5.5%、プラセボ群の5.5%とasundexianに用量依存性の効果が認められた。しかし、asundexian 20 mg/日群と50mg/日群の合計とプラセボ群で発生率に有意差はなく(HR 1.05、90%CI 0.69~1.61)、プラセボ群とasundexian 50mg/日群の比較でも有意差は認められなかった(同1.01、0.61~1.66)。
有害事象の発生率に有意な群間差は認められなかった。
Alexander氏らは、同試験の結果を次のようにまとめた。①asundexian 50mg/日は第Ⅺa因子の活性を90%超抑制した、②DAPTへの上乗せでプラセボに対しasundexianのいずれの用量でも著明な出血(BARC出血分類2、3、5型)または全ての出血を増加させなかった、③プラセボに対しasundexianのいずれの用量でも虚血イベントの抑制は認められなかったが、4群全体での虚血イベントは95件のみで、信頼区間の幅も大きかった、④その他の有害事象の増加はなかった―。
以上から、同氏らは「今回のデータ、遺伝学的エビデンス、前臨床エビデンスを合わせて、AMI後の患者を対象に抗凝固薬としてのasundexianの安全性と有効性を第Ⅲ相試験で検討することが支持される」と述べた。
(編集部)