日本感染症学会と日本化学療法学会は9月8日、両学会が同月2日に加藤勝信厚生労働大臣に提出した提言の補足説明を公表した。提言は塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬のエンシトレルビル(商品名ゾコーバ)の緊急承認などを要請するものであり、それをめぐって医師や会員からの批判が相次いだ。このことに対し、両学会はホームページで提言の経緯や意図に関する説明をした上で、「製薬企業などへの利益誘導が目的ではない」と釈明した(関連記事「国産コロナ治療薬の緊急承認に関する提言」)。
提言の補足説明に関する6つのプロセス
2日に公表した「新型コロナウイルス感染症における喫緊の課題と解決策に関する提言」の補足説明において、日本感染症学会理事長の四柳宏氏がエンシトレルビルの治験調整医師、同学会役員の大曲貴夫氏が治験調整医師、迎寛氏が医学専門家を務めていることを明らかにした。その上で、提言の公表に至るプロセスについて、以下の6つを明記した。
①本提言の公表までのプロセス
②この時期に提言を出した理由について
③抗ウイルス薬が十分に使われていない現状に関して
④ウイルス量を早期に減らすことの意義に関して
⑤今回エンシトレルビルに関して緊急承認の適用を求めたことに関して
⑥今回の提言と4学会声明の違いについて
6つの項目において今回示された補足説明は以下の通り。
①については、今後の方向性について評議する者を両学会から選出し、ウェブ会議を8月中に2回行い、メールで意見交換をした。その上で提言案を作成し、両学会の役員(理事・監事)全員から意見を伺った。さまざまな意見が寄せられたが、提出に反対意見はなかった。役員の医師の指摘をなるべく反映させる形で修正を行い、8月下旬に最終案をまとめている。
②については、提言ではCOVID-19の早期診断、早期治療の必要性を1番目に挙げている。既に使用されているニルマトレルビル/リトナビル(商品名パキロビッドパック)やモルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)の治療適応である60歳超の者、基礎疾患のある者への早期診断、早期治療が行える体制の構築が大切。若い世代や軽症者にも投与できるエンシトレルビルを投与可能にすることが必要と考えた。
③については、ニルマトレルビルやモルヌピラビルは、COVID-19患者の診療を行っている医療機関や薬局に国が配置しているが、登録数が増えないことが問題点。また、投与対象者は60歳超または基礎疾患のある者は、相当数に腎機能障害が想定される。ニルマトレルビルの処方に際し、処方時点での腎機能を評価することが望ましいが、緊急検査が施設内で可能な医療機関に限定される。今後は感染が疑われた場合、どの医療機関で受診、治療が受けられるかを国民に示すことが必要。
④については、エンシトレルビルの治験ではウイルス株の変異に伴い、モルヌピラビルやニルマトレルビルの治験のような入院や死亡率の減少を証明できなかった。しかし、ウイルス量の減少が有意差をもって確認されており、発熱や呼吸器症状の改善も認められている。結果、ウイルス量の早期の減少は臨床症状の改善につながると考えられ、今後の臨床試験で明らかになることが期待される。
⑤については、提言を公表したきっかけとして、60歳以下でリスクのない者に対する効果が期待され、感染や健康被害の拡大が防止できる薬であるかどうかの確認が十分に行われたように思えなかった。また、緊急承認に関して「安全性が通常の薬事承認と同水準まで確認されることを前提」「有効性は緊急時に検証的臨床試験が完了していない場合でも、入手可能な臨床試験の試験成績から有効性が推定された場合、承認可能」であり、「承認後でも有効性等が確認されなければ承認を取り消す」ことが明記されている。従来の薬事承認とはプロセスそのものが異なるなどと説明した。
利益相反のある理事長ら役員が提言作成に関与
以上の考えを基に、提言作成への経緯と意図が示されている。しかしながら、四柳氏ら役員3人がエンシトレルビルの治験に関与している点については、「製薬企業等への利益を目的としたものではない」と付記している。
(編集部)