ループ利尿薬へのアセタゾラミド追加により急性非代償性心不全(ADHF)のうっ血が3日以内に改善した。ベルギー・Hospital Oost-LimburgのWilfried Mullens氏らは、ADHF患者に対するアセタゾラミドのうっ血改善効果を検討した大規模多施設ランダム化比較試験(RCT)ADVORの結果を欧州心臓病学会(ESC 2022、8月26~29日)で報告した。詳細はN Engl J Med(2022年8月27日オンライン版)に同時掲載された。
ADHF患者519例が対象
通常は慢性心不全の急性増悪により生じる急性心不全は、70%がADHFで緊急の評価と治療を要する。ESCのガイドライン(Eur Heart J 2021; 42: 3599-3726)では、心不全で入院した患者については退院前にうっ血の徴候を慎重に評価し、至適な経口治療を行うことを推奨している。ただし現在、全ての心不全患者のうっ血に使用できるクラスIの治療薬はループ利尿薬だけである。ADHF患者308例を対象にループ利尿薬の効果を検討したDOSE試験では、約半数が2カ月以内に死亡または再入院し、3日以内にうっ血が改善したのは全体の15%程度と、大きな効果は認められていない(N Engl J Med 2011; 364: 797-805)。
心不全では近位尿細管でのナトリウム再吸収が促進されるのに対し、ループ利尿薬はヘンレのループで遠位尿細管に作用することから心不全に対する効果が低いと考えられる。
そこでMullens氏らは、近位尿細管でのナトリウム再吸収を抑制する炭酸脱水酵素阻害薬アセタゾラミドをループ利尿薬の静注に追加することで、ADHF患者のうっ血を改善させられるかどうかをADVOR試験で検討した。
3日以内のうっ血除去を検討
ベルギーの27施設で2018年11月11日~22年1月17日にスクリーニングを受けたADHF患者2,915例中519例を、アセタゾラミド群(259例)とプラセボ群(260例)にランダムに1:1で割り付けた。アセタゾラミド群には標準的なループ利尿薬に加えてアセタゾラミド500mgを、プラセボ群にはプラセボを1日1回静注した。組み入れ基準は、ADHFによる入院、体液量過剰のサイン(浮腫、胸水、腹水のいずれか)が少なくとも1つ存在、経口ループ利尿薬を少なくとも1カ月服用、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-pro BNP)1,000pg/mL超またはBNP 250pg/mL超とした。
主要評価項目はうっ血除去の成功(うっ血除去療法を増加せずに3日以内に体液過剰が消失)。副次評価項目は全死亡または3カ月以内の心不全による再入院および退院までの期間の複合とした。
両群の患者背景は同等で、平均年齢は78歳、左室駆出率(LVEF)は平均43%、 3分の2はLVEFが保たれた心不全(HFpEF)、3分の1がLVEFが低下した心不全(HFrEF)、NT-pro BNPが中央値で6,200pg/mL、推算糸球体濾過量(eGFR)は中央値で39mL/分/1.73m2。
うっ血除去が46%増加
主要評価項目である3日以内のうっ血除去の成功は、プラセボ群259例中79例(30.5%)、アセタゾラミド群256例中108例(42.2%)に認められ、アセタゾラミド群で46%増加した〔リスク比(RR)1.46 、95%CI 1.17~1.82 、P=0.0009、治療必要数(NNT)8.5〕。退院時のうっ血除去成功はそれぞれ232例中145例(62.5%)と241例中190例(78.8%)に認められ、アセタゾラミド群で27%増加した(同1.27、1.13~1.43、P=0.0001、NNT 6)。事前に設定された全てのサブグループでアセタゾラミドの主要評価項目に対する有意な効果が一貫して認められた。さらに、アセタゾラミド群ではより強い利尿作用(2日目のプラセボ群との差0.5L、P=0.002)およびナトリウム利尿作用(同98mmol、P<0.001)が認められた。
入院は1日短縮
副次評価項目については、入院期間はプラセボ群(平均9.9日)に対しアセタゾラミド群(同8.8日)で約1日短かった(P=0.016)。ただし、全死亡および全死亡または心不全による再入院の複合に有意差は認めれなかった〔プラセボ群259例中72例(27.8%)、アセタゾラミド群256例中76例(29.7%)、ハザード比(HR)1.07、95%CI 0.78~1.48〕。
重篤な代謝性アシドーシス、腎イベント、低カリウム血症、低血圧などの有害事象は両群で差はなかった。
以上から、Mullens氏は「体液過剰のADHFを対象としたADVOR試験の結果、標準的なループ利尿薬の静注にアセタゾラミド500mgを加えることで、3日以内のうっ血除去成功が46%増加した。同様の効果が事前に設定した全てのサブグループで認められた。アセタゾラミド群ではより強い利尿作用およびナトリウム利尿作用が認められ、入院期間は短く、体液過剰で退院するリスクは低かった。アセタゾラミドによる有害事象の増加は認められなかった」と結論。
「ADVOR試験の結果により、うっ血は早期から積極的に治療する重要性が強調され、利尿反応の指標としてナトリウム利尿を使用することが支持された。特許期限切れで低コストの使いやすく安全な薬剤であり、うっ血の改善に非常に効果的であることからアセタゾラミドの使用が支持される」と述べた。
(編集部)