順天堂大学代謝内分泌内科学講座の加賀英義氏らは、東京都文京区在住の高齢者を対象としたコホート研究Bunkyo Health Studyで、糖尿病予備軍とされる前糖尿病におけるサルコペニアのリスクを検討。その結果、男性では2型糖尿病に加え前糖尿病がサルコペニアの独立した危険因子であることが示されたとJ Cachexia Sarcopenia Muscle2022年9月2日オンライン版)に発表した。

耐糖能正常群、前糖尿病群、2型糖尿病群でサルコペニアを検討

 社会の超高齢化とともに、要介護状態の高齢者が増えている。要介護に至る原因として、加齢に伴う骨格筋量、筋力、身体機能の低下を特徴とするサルコペニアがある。糖尿病を有する高齢者は非糖尿病の高齢者に比べ、サルコペニアのリスクが2倍程度高いとされる。

 さらに、高齢化に伴い前糖尿病の人が増加している。前糖尿病は、将来的に糖尿病を発症しやすいだけでなく、糖尿病患者と同様、脳卒中や心筋梗塞といった心血管疾患リスクが高いことが分かっている。

 しかし、前糖尿病状態がサルコペニアのリスクとなるかについては明らかにされていない。

 そこで加賀氏らは、Bunkyo Health Studyで耐糖能とサルコペニアとの関連を検討した。対象は、東京都文京区在住の高齢者1,629例(平均年齢73.1±5.4歳、男性687例、女性942例)。耐糖能で、①正常(男性304例、女性528例)、②前糖尿病(同183例、271例)、③2型糖尿病(同200例、143例)―の3群に分類した。耐糖能の評価は日本糖尿病学会の診断基準に基づき、空腹時血糖値110mg/dL未満かつ糖負荷後2時間血糖値140mg/dL未満かつHbA1c6.5%未満を「正常」、空腹時血糖値126mg/dL以上または糖負荷後2時間血糖値200mg/dL以上またはHbA1c6.5%以上または経口血糖降下薬服用の場合を「2型糖尿病」、その他を「前糖尿病」とした。

 身長、体重、体組成、握力、膝伸展・屈曲筋力の測定、歩行速度や開眼片脚立ち検査などの身体機能検査、75g経口糖負荷検査による耐糖能評価を実施。体組成の測定には生体電気インピーダンス法を用いた。サルコペニアは、アジア人向け診断基準(AWGS2019)に基づき握力(男性28kg未満、女性18kg未満)と骨格筋量(男性7.0kg/m2未満、女性5.7kg/m2未満)で診断した。

加齢、高体脂肪率、低BMIもリスクに

 サルコペニアの有病率は、男性で12.7%、女性で11.9%だった。年齢、BMI、体脂肪率、身体活動量、エネルギー摂取量、脳血管疾患の既往を調整後に解析したところ、サルコペニアの独立した危険因子として男性では2型糖尿病〔オッズ比(OR)2.614、95%CI 1.362~5.018〕だけでなく前糖尿病(同2.081、1.031~4.199)が示された。一方、女性では2型糖尿病のみだった(同2.099、1.146~3.844)。

 また、男女とも加齢(男性:OR 1.086、95%CI 1.028~1.146、女性:同1.195、1.142~1.251)、高体脂肪率(同1.346、1.240~1.461、1.218、1.138~1.303)がサルコペニアの独立した危険因子で、BMIの上昇(同0.371、0.299~0.461、0.498、0.419~0.593)は保護因子であることも示された。

 以上から、加賀氏は「都市部在住の高齢男性において、糖尿病患者だけでなく前糖尿病状態もサルコペニアの独立した危険因子であることが明らかになった。運動食事などの生活習慣の改善に早期から取り組むことが、糖尿病予防だけでなくサルコペニア予防の観点からも重要である」と結論している。

(比企野綾子)