PCSK9阻害薬エボロクマブの国際共同第Ⅲ相試験FOURIERでは、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)患者を対象に、至適用量のスタチンに同薬を上乗せすることで、心血管イベントの低減効果が示されていた(関連記事「PCSK9阻害薬で初、心血管イベント抑制」)。米・Brigham and Women's HospitalのMichelle L O'Donoghue氏らは、同試験のオープンラベル延長試験FOURIER-OLEの結果を欧州心臓病学会(ESC2022、8月26~29日)で発表。最長で8.4年間観察し、同薬の良好な結果が継続して得られたと報告した。

FOURIERから6,600例超を登録  

 FOURIERでは、ASCVD患者2万7,564例を対象に、至適用量のスタチンへのエボロクマブ(隔週に1回140mgまたは毎月1回420mgを皮下投与)の上乗せ効果をプラセボと比較。エボロクマブの上乗せにより、主要評価項目(心血管死、心筋梗塞、脳卒中不安定狭心症による入院または冠動脈血行再建術の複合)および副次評価項目(心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合)の発生リスクの低減効果が認められたものの、追跡期間の中央値が2.2年と短かったからか、心血管死の低減効果は認められなかった。しかし、スタチンの既存の主要な臨床試験では臨床効果が次第に増大する「ラグエフェクト」および早期からの介入による効果がその後も持続する「レガシーエフェクト」が認められ、前者についてはFOURIERにおいてもその傾向が認められていた。  

 そこで、O'Donoghue氏ら、同薬の長期安全性および同薬の効果をより長期間にわたり検証すべく、同試験のオープンラベル延長試験FOURIER-OLEを実施した。FOURIER-OLEでは、FOURIERのプログラムを完了した患者のうち、欧米の患者に限定しプラセボ群から3,280例、エボロクマブ群から3,355例を組み入れた。プラセボ群の患者ではプラセボ群からエボロクマブ(FOURIERと同量)に切り替え、エボロクマブ群はそのまま継続投与とし、中央値で5.0年追跡し、最大治療期間は8年超だった。

プラセボ群ではエボロクマブ切り替え後に著明に低下

 両群のベースライン時(FOURIER登録時)における主な患者背景は、人種や地域に偏りが出たことを除くと両群でバランスが取れ、LDLコレステロール(LDL-C)は2.4mmol/Lまたは91~92mg/dLだった。  

 LDL-Cの推移を見ると、FOURIER開始後、プラセボ群ではほとんど変化がなかったものの、エボロクマブ群では0.7~0.8mmol/Lへと著明に低下した。また、プラセボ群では、FOURIER-OLE開始によりプラセボ→エボロクマブに切り替え後に著明に低下、12週時以降、両群とも似たような経過を辿り、260週時では中央値0.75mmol/L(四分位範囲 0.44~1.29mmol/L)または29mg/dL(同17~50mg/dL)だった。

 FOURIERフェーズのプラセボ群、エボロクマブ群、FOURIERおよびFOURIER-OLEフェーズのエボロクマブ群の3群に分け、それぞれの項目ごとに長期の安全性を見ると、重篤な有害事象の年間発生率はそれぞれ13%、13%、10%、注射部位反応0.7%、0.8%、0.4%、薬剤関連アレルギー反応1.1%、1.1%、0.6%、筋肉関連の有害事象1.9%、2.1%、1.2%だった。また、新規糖尿病発症2.3%、1.8%、1.2%、出血脳卒中0.05%、0.00%、0.04%と、長期間エボロクマブを投与してもプラセボ群のイベント発生率を上回らなかった。

心血管死でも有意差が認められる  

 FOURIER-OLEフェーズにおける主要評価項目のリスクを比べると、5年時のイベント累積発生率はプラセボ群17.5%に対し、エボロクマブ群15.4%、ハザード比(HR)0.85(95%CI 0.75~0.96、P=0.008)と有意差が認められた。  

 同様に副次評価項目についても、5年時の累積発生率はプラセボ群の11.9%に対し、エボロクマブ群で9.7%、HR 0.80(95%CI 0.68~0.93、P=0.003)と20%リスクが低下していた。また、FOURIERフェーズでは有意差が認められなかった心血管死についても同様で、それぞれ4.45%、3.32%、HR 0.77(95%CI 0.60~0.99、P=0.04)とエボロクマブ群で有意にリスクが低下していた。  

 FOURIERフェーズおよびFOURIER-OLEフェーズにおける主要評価項目、副次評価項目、心血管死の経時的変化を見ると、主要評価項目および副次評価項目は、全ての患者がエボロクマブを服用したFOURIER-OLE以降で両群の乖離がより大きく、心血管死ではFOURIERフェーズでの差はなかったものの、FOURIER-OLEフェーズ以降に両群の乖離が生じたことから、エボロクマブを早期から服用していたFOURIERフェーズのレガシーエフェクトが示唆された。  

 O'Donoghue氏は「ASCVD患者に対しエボロクマブを長期に投与しても安全なことが示された。今回の結果に基づくと、同薬を早期に投与することで、よりベネフィットが得られる可能性が期待できる」と述べた。

(編集部)