生殖補助医療(ART)のうち凍結胚移植により出生した児のがん発症リスクは高いのかー。スウェーデン・Sahlgrenska University HospitalのNona Sargisian氏らは北欧4カ国でのコホート研究結果を、PLoS Med(2022; 19: e1004078)に報告した。
ARTによる出生児と自然妊娠による出生児で小児がん発症を比較
世界中でARTによる出生児が増える中、多くの国において凍結胚移植による出生児の数は新鮮胚移植のそれを上回っている、とSargisian氏ら。同時に、凍結胚移植による出生児では、小児がんとも関連する巨大症リスクが上昇するが、ARTと小児がんとの関連についてはコンセンサスが得られていないという。
そこで同氏らは、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの北欧4カ国のコホート研究に登録されたARTによる出生児(ART群)17万1,774例と自然妊娠による出生児(対照群)777万2,474例を対象に、とりわけARTの中でも凍結胚移植による出生児における小児がん発症リスクとの関連を検討した。
対象は1984〜2015年に出生し(デンマークのみ1991〜)。主な特徴は単胎児がART群12万7,230例、対照群757万3,456例、双胎児がそれぞれ4万2,536例、19万4,464例、多胎児が2,008例、4,554例、なんらかの出生異常が8,965例、26万3,781例、男児が8万7,805例、398万8,987例だった。両群の18歳までのがん発症率を比較した。
ART全体では発がんリスク上昇せず、肺凍結移植では1.6〜1.7倍
追跡期間中、18歳までのがん発症数はART群329例(発症率19.3/10万人・年)、対照群1万6,183例(同16.7/10万人・年)で、初回診断時の平均年齢はそれぞれ6.0歳、6.8歳だった。
Cox比例ハザードモデルを用いた解析の結果、対照群に対するART群の小児がん発症の調整ハザード比(aHR)は1.08(95%CI 0.96〜1.21、P=0.18)で、有意差は示されなかった。しかし、凍結胚移植による出生児に限定したところ、新鮮胚移植に対し約1.6倍(aHR 1.59、1.15〜2.20、P=0.005)、対照群に対し約1.7倍(同1.65、1.24〜2.19、P=0.001)の有意なリスク上昇が認められた。
以上から、Sargisian氏らは「ARTの中でも凍結胚移植による出生児では、新鮮胚移植および自然妊娠による出生児に比べ、小児がんの発症リスクが高いことが示唆された」と結論。「凍結胚移植による出生児のサンプル数は少ないため、結果は慎重に解釈すべき」とした上で、「明確な臨床指針がない中でARTの主流が『全胚凍結(freeze-all strategies)』に移行し、凍結胚移植が増加する現状において懸念を示す結果である」と警鐘を鳴らしている。
(松浦庸夫)